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2023.03.25

『REVENGER』 第十二話「The Sun Always Rises」

 阿片の隠し場所である灯台に突入した雷蔵・徹破・惣二は、傷つきながらも貞の一味を退け、阿片の始末に成功する。一方、鳰とともにお宍戸の屋敷に踏み込んだ幽烟は、宍戸の甘言も相手にせず利便事を成就する。そしてそれぞれこれまでの日常に戻った中、絵師として唯の絵を描き続ける雷蔵だが……

 前回のある意味最大のどんでん返しを受けて幽烟が雷蔵に拘る理由も明らかになり、残るは宍戸一味との決着となった今回。全員揃って利便事に殴り込み――と思いきや、雷蔵・徹破・惣二と、幽烟・鳰の二手に分かれたチームは、それぞれ隠し場所と思しき灯台と宍戸屋敷で、敵の護衛たちと壮絶な戦いを繰り広げることになります。

 造形的に対になるような相手との対決(一人だけそうでない人物がいましたが、それは後で意味を持つので……)、利便事においても静のイメージが強かった幽烟の新技連発の暴れっぷりなど、最終回のかなりの部分を割いて描かれたこの決戦。ラストに相応しい外連味あふれる戦いを堪能させていただきましたが、終わってみれば結局は宍戸も貞も、悪役のための悪役のような存在であり、それに相応しい最期を遂げたのはある意味残念ですが――むしろ、本作で雷蔵たちが真に対峙すべきものは別にあったというべきでしょうか。

 何故なら、たとえ宍戸を、貞を倒し、阿片を始末して平穏な日常に戻ったとしても――そして絵師・碓心という新たな人生を歩み始めても、いまだ雷蔵の絵の中の唯は笑顔を見せようとしないのですから。そしてそんなある日、かつて幽烟と初めて出会った橋の下で足を止めた雷蔵は……


 こうしてラストに相応しい大殺陣が描かれ、物語が大団円を迎えた後で、本作はさらに一つの結末を描いて終わることになります。
 その結末は、正直なところ意外とは言い難い印象ではありますし(あのキャラが残った時点で、もうこれしかない――というかブランドイメージというか)、ある種の予定調和という印象はあります。それでもそれは、ひどくもの悲しくも美しいものであったことは間違いありません。

 前回語られた、唯からの雷蔵への利便事の依頼。存在も――ましてや幽烟たちによって強引に達成された扱いとなったことも雷蔵は知る由もないその依頼は、しかし「利便事屋」の手によって正しく行われることになります。それを因果応報というべきかはわかりませんが、しかし雷蔵にとって、それが一つの救いとなってしまったこそが、本作の最後の、そして最大の悲劇と感じられます。

 髭を剃るのも忘れて画に打ち込み、しかしそれでもなお画の中の唯は笑わない――それは鳰が見透かしたように、たとえ新たな生を歩み始めたとしても彼の内面は変わらない、彼が自分自身を許すことができていないということにほかなりません。
 だとしたら彼の向かうべき先は――そう考えれば、この結末は必然ではあるものの、それしかなかったことに、ひどく索漠たる想いを抱かざるを得ません。


 主人公の魂の遍歴を描きつつ、それと重ね合わせることにより、人が金を取って人の恨みを晴らす、いわゆる必殺ものというジャンルの意味と在り方を問いかけ直してみせた本作。その試みは非常に好もしく感じられますが、しかし同時に、もう一つの道を見せてほしかったという思いも強くあります。

 人を殺めた者が、きっかけ一つで新たな生を歩めるのは甘すぎる。人を殺めた者には、生の道を断つしか救いがないのは辛すぎる。そんな人間でもその先の生を歩む、生を歩める答えは本当にないのか――それはもちろん、この作品の目指したところから踏み出してしまうのだとは思いますが、美しい予定調和のその先を描いてほしかった、という気持ちは確かにあるのです。
 もちろんその時点で、見事にクリエイターの思う壺なのだとは思いますが、それはそれで気持ちの良いものであります。


 しかし最後に野暮を一つ言えば、脇差(というか短刀)をああいう形で使うのであれば、普段から二本差しさせておくべきではなかったのか? というのは強く感じます。
 一種の省略かと思っていたところに、あのラストの扱いは、ちょっと不思議ですらあります。


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