わらいなく『ZINGNIZE』第9巻 時は流れた! 第二章開幕 台風の目の名は阿国
ついに不死身の怪物・風魔小太郎を倒した三甚内。しかし菊は小幡勘兵衛の術中にはまって長安を襲撃、そして高坂は服部半蔵との戦いの末に姿を消し――そして時は流れて三年後、『ZINGNIZE』第二部の開幕であります。はたして高坂を、菊を待つものは――新たな戦いが始まります。
超忍法「ぬばたま」によって風魔小太郎を倒した末、ようやく菊と結ばれるかに見えた高坂甚内。しかし勘兵衛の術により、菊は彼の思うままに動く傀儡と化し、大久保長安を襲うのでした。
彼女が父とも慕う長安を襲わせたことに激怒する高坂ですが、勘兵衛はなんとぬばたまで反撃。しかしそこに現れた服部半蔵によって勘兵衛は瞬殺され、そして続いて高坂と半蔵の死闘が……
そして意識を取り戻した菊が見たものは、勘兵衛によって落とされた高坂の足首だった、という衝撃的な幕切れとなった前巻ですが、この巻はその三年後、1607年を舞台とすることになります。
関ヶ原の戦以降、いよいよその力を増す徳川家ですが、大坂の豊臣家との関係は、いまだ表面上は平静を保ったもの。しかし水面下では激しい暗闘が繰り広げられていたわけですが――問題は、前巻の終盤に勘兵衛の口より、高坂が大坂の間者であると明らかになったことであります。
この時期に、徳川幕府の財務大臣というべき大久保長安の近くにいた男が、大坂方だった――当然幕閣の間で問題にならないはずもありません。喧々諤々の議論(ここで本多正信が、自分が過去に一向一揆に走った例を挙げて長安の行動を説明するのが実に面白い)は、家康が長安の側に立って収まったものの、このままで済むはずもありません。
かくて高坂の首には多額の賞金がかけられ、それを目当てに動き出したのは八組の猛者たち――何だか相変わらずとんでもないデザインの奴もいますが、いずれも一癖も二癖もありそうな面々であります。
その一方で、長安より京に現れたという高坂の行方を探すように命じられた菊と、何故か彼女と同行を命じられた庄司甚内。京に上がって早々、高坂と出くわす二人ですが、その傍らには一人の妖艶な美女が……
というわけで始まった第二章。強敵の戦いの中で主人公が行方不明となって――という場面から数年後、はたして主人公の行方は!? というのは大いに盛り上がる展開ですが、ここであっさりスカしてみせるのは、本作ならではのセンスというべきでしょうか。
この巻は巻末に番外編が収録された関係で本編が少なめということもあり、まだ物語はほとんど進んでいないという印象も強いのですが――その分、物語を一気に掻っ攫った感があるのは、高坂と行動を共にしていた美女・出雲阿国。そう、あの阿国であります。
しかも本作の阿国は、庄司とも顔見知りである上に(これはまあわかる)、何と菊の師匠という設定。その天衣無縫の言動と新たなエロ要員ぶりに、読者も振り回されるばかりなのですが――もちろん本作に登場するからには、只者であるはずもありません。
高坂と自分の出会いを盲亀浮木に喩え、菊に対して高坂は自分のものと宣言する阿国。高坂と菊の今後も気になりますが、それすらも吹き飛ばす台風の目が出現した印象です。
そしてこの巻の巻末に前後編で収録されている番外編は、この阿国を主人公とする「山姥」。時に山中で大鹿を喰らい(猟師たちも別の意味で喰らい)、時に越前で結城秀康の前に現れ――神出鬼没、謎めいた存在である阿国が、能の山姥に擬えて描かれることになります。
父・家康に疎まれるほど醜い顔だったとも、梅毒で鼻が欠けていたとも言われる顔を仮面で隠した結城秀康の素顔が、実は――というのもいいのですが、そんな秀康を受け止め、癒やす阿国の姿が印象に残るこのエピソード。
能の山姥は、単純な鬼女とは言い難い謎めいた存在ですが、阿国もまた、幾重にも隠された顔があることを感じさせる物語であります。
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