『REVENGER』 第十一話「The Die is Cast」
雷蔵を囮にして、宍戸一派への反撃の機会を狙う幽烟たち。一方、修道女の言葉に疑念を募らせていた惣二は、そもそもの発端となった薩摩での利便事について幽烟に問う。意外なその答えに納得できず、さらに葛藤を深める惣二。そんな中、ついに敵の根城が判明し、利便事屋たちは決戦に向かう……
決戦を目前として、物語を貫く大きな謎であった幽烟が雷蔵に拘る理由が語られることとなった今回。しかしそれだけではなく、物語の構図が全く変わるようなある「真実」が語られることになります。
雷蔵が自分を囮として貞一派の襲撃を誘き出そうとし、鳰と徹破がこれに協力していた一方で、一人行動を別にしていた惣二。前回ラストで、幽烟が雷蔵に拘る理由を探れと修道女に言われたから――というよりも、自分自身もその理由が気になっていたからでしょう、彼なりに色々と調べたらしく惣二は幽烟に問います。
そもそも阿片と関わる切っ掛けになった比良田厳信の依頼は如何なる流れで受けたのか。雷蔵が手にしている唯の形見の簪は幽烟が拵えたものではないのか。薩摩での利便事の後に鳴らした鐘は誰のためだったのか……
実は比良田の娘・唯の婚礼祝いの簪を依頼された縁で利便事のことを比良田に語っていた幽烟。そして比良田が雷蔵に斬られた後、幽烟は唯に簪を届けるために薩摩まで足を運んでいたのですが――そこで彼が語ったことがが悲劇の発端でした。そう、まさか婚約者同士であったなどと知る由もなく、幽烟は比良田を斬ったのが雷蔵だと唯に告げてしまったのであります。その言葉に絶望、いや激昂した唯は、凄まじい表情で小判を――それこそ食い千切らんばかりの力で恨噛み、雷蔵への利便事を依頼したのです。
そして雷蔵に接近し、彼もまた犠牲者であったことを知った幽烟。しかしその事実を語ろうとした相手である唯は自ら命を絶ち、幽烟の手に残ったのは彼女の恨噛み小判のみ。もはや依頼を取り消すこともできず、かといって雷蔵に利便事するわけにもいかない――これまでの幽烟の雷蔵に対する態度は、この誰が悪いわけでもない、あまりにも残酷で皮肉な運命から来たものだったのです。
だからといって、惣二がはいそうですかと納得できるはずもないのもまた当然のこと。あくまでも利便事は利便事――逆恨みによるものもあったかもしれない。標的も後悔していたかもしれない。改心していたかもしれない。絵師として第二の人生を歩む者もいたかもしれない。しかし――だからといっていちいちその事情を斟酌していては利便事は成り立たない。利便事屋として「軽い」印象だった惣二が、ある意味一番利便事屋としての自分に拘ることになったのは――そして利便事屋のリーダーである幽烟が、利便事屋であることに背を向けたように見えるのは、これもある種の皮肉というべきでしょうか。
しかし、利便事屋を動かすのが金だけでなく、人の無念の想いであるのならば――雷蔵の無念の想いを、彼に新たな生を歩ませることで晴らすことは、必ずしも利便事屋の道に背くものではないのかもしれません。すくなくともそれは、幽烟が背負う神の教えに適うものと感じます。阿片を蔓延させて他国を攻め込ませ、その混乱の中で神の国を打ち立てようとするよりも遥かに……
そしてその間にも自体は動いていきます。雷蔵が自分を囮として貞一派の狙撃手を引きつけている間に、鳰と徹破が阿片が隠されていると思しき箇所を探索し、ついに敵の本拠らしき灯台を発見するのですが――さて、利便事屋たちが全ての決着をつけに向かう中に惣二は加わるのか。雷蔵への利便事は――その答えは言うまでもないでしょう。
いよいよ次回、決着であります。
と、ラストに向けた盛り上がりに触れておしまい、としたいところですが、やはり懺悔しなくてはなりません。僕は第一回の紹介の中で「普通の話」「あまりによく見かけるパターン」「あまり独自性は感じられません」と書きました。
しかし「藩内の争いに巻き込まれて濡れ衣を着せられ、藩に居られなくなった主人公が――」という定番のパターンの、その陰で美しく儚く犠牲になった女性という、これまた定番と思い込んでいたシチュエーションをひっくり返すことにより、表に見えていた構図が全く別のものに変わり、さらにそれが物語を引っ張っていくのが、「普通」であるはずもありません。この見事な仕掛けには、ただただ脱帽するしかありません。
こちらの思い込みを恥ずかしく思うと共に、それに対して見事に利便事してくれたのが嬉しくて仕方がない――それが今の正直な気持ちであります。
それにしてもアンゲリアの異端者という言葉から見るに、修道女の正体は……(やっぱりここは素直に英国にしていた方が面白かったと思うんですが)
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