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2023.04.16

『地獄楽』 第3話「弱さと強さ」

 ついに神仙郷に上陸した佐切と画眉丸。しかしそこで画眉丸を襲ったのは、同じ死罪人・いがみの慶雲だった。慶雲を全くものともせず倒す画眉丸だが、時をほぼ同じくして、死罪人と死罪人、死罪人と浅ェ門たちの戦いが始まっていた。そして佐切にも画眉丸が襲いかかる。佐切を圧倒する画眉丸だが……

 冒頭から想像以上に時間を割いて、石隠れの長の不死身ぶりが描かれた今回。まあそれはこう、アレだったわけですがそれはさておき、ここで冒頭から描かれてきた画眉丸と佐切の物語に、一つの着地点が描かれることになります。

 石隠れ最強と恐れられてきた画眉丸は言うまでもなく、その画眉丸に死を覚悟させたほどの剣技を持つ佐切。しかしその佐切の中にある、人を斬ることへの迷いという弱さが、前回描かれました。その迷いは、人を殺すことの覚悟を決め、その業を背負うという画眉丸の姿を目の当たりにしたことで、抜け出る道が見えたかに思われたのですが――しかしもちろん、そうそう簡単に迷いが晴れるはずもありません。
 そしてその迷いは、今回の後半、追加組としての石隠れ衆の派遣を知り、早期決着のために佐切排除を決意した画眉丸との対決の中で、頂点を迎えることになります。
(それにしても今見返して見ると、こんな早い時点で追加組の登場が想定されていたのかと感心。もちろんあの顔ぶれまでは決まっていなかったとは思いますが……)

 先に述べた通り、かつては画眉丸に死を感じさせた佐切ですが、しかし画眉丸の過去を知り、その内面の一部に触れた今となっては、彼に向ける刃も躊躇いに揺れます。その果てに画眉丸に圧倒され、死を目前とした佐切ですが――しかし躊躇いを抱えていたのは画眉丸もまた同様であります。
 全く別々の人間でありつつも、それぞれに「情」を抱え躊躇いを抱く――そんな共通項を持つ二人。人と人との感情の結び付きの中で最も強いものが恋愛感情だとすれば、それが存在しない男女ペアというのは、ドラマ的になかなか描きにくいものかと思いますが、(画眉丸に妻がいるとはいえ)それをこの共通点を描くことで成立させてみせたのは、本作の巧みさであることを、再確認させられます。

 そしてその関係性――というよりそこに至る二人の心の揺れを、二人の表情――特に目の動きを描くことで浮かび上がらせてみせたのは、これはアニメならではのアドバンテージをきっちりと活かせてみたせものとして、素直に感心させられました。冒頭で描かれる島の美しさと異様さも印象に残りましたが、今回のこの点に、このアニメ版の意味を見た――というのは言いすぎですが、正直な思いでもあります。
(というかモブがいなくなって、いきなり色々な意味で解像度が上がった印象が……)


 と、画眉丸と佐切のことばかり書いてしまいましたが、今回は「デスゲーム」としての物語のスタートでもあります。今回だけで死罪人が四名だけでなく、浅ェ門も一名リタイアしたのは結構なハイペースですが、しかしそれもこの「ゲームのルール」の過酷さの表れというべきでしょうか。特にこういう時のある意味定石とはいえ、浅ェ門側の最初の死者については、初めてこの物語に触れた方は相当驚いたのでは――と、原作初読時のことを思い出します。

 しかしこの島で待ち受ける死は、決して人間同士がもたらすものだけではないことがこの回のラストに描かれることになります。いよいよその牙を剥き出しにした島との対決の行方は――ここまでで原作の第1巻まで、ここからが本番であります。

(にしても原作での、巌鉄斎と付知がアレした? と思わされたイメージシーンがカットされていたのは、まあ当然の判断なのでしょう)

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