「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その一)
「コミック乱ツインズ」最新号は、『鬼役』&『勘定吟味役異聞』の二大旗本ヒーローが表紙。巻頭カラーは『鬼役』、特別読切は『玉転師』『凛九郎』であります。今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。
『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
二本松派の真の切り札であり、父を斬った二胴の遣い手が、坂東孫十郎であったと悟った佐内。しかし既に覚悟が決まりまくった佐内は、剣客として正面から坂東に挑む決意を固めるのですが、その前に相良が――という引きとなった前回ですが、今回のメインとなるのはその相良と佐内の二人の姿であります。
妙に思い詰めた表情の相良は、いつぞやの船宿に佐内を誘って、思いを遂げんと――などという余裕はなく、前回の益子屋同様、「狗」と組んで坂東を倒せと促すも、もちろん佐内はあくまでも二人だけで決着をつけると、淡々と、しかし力強く答えます。その上で、自分が敗れたら愛刀の国包をやると言う佐内に、思わず激した相良。そんな相良に、佐内は「好きにしていいぞ」と告げるのですが……!
と、ついに来るもの(?)が来たか! と滅茶苦茶ハラハラさせられた今回。まあ佐内がこんなことを言い出した裏には、ある意味相良には非常に失礼な理由があるのですが、しかしそれでもそこには佐内と相良の間の一種の絆があることは間違いありません。
前回、佐内は散っていった刺客たちを仲間として受け止めているように語りましたが、しかし距離の近さという点では、相良の右に出る者はいないでしょう。もちろん、相良が物理的にグイグイ来ていたから――というのは冗談として、二人はこれまで、金で繋がれた間柄とは思えぬ、素顔でのやりとりを重ねてきましたといえるでしょう。
そのある意味頂点が今回といるかもしれませんが、いずれにせよ、そこにあるのは、これまで剣と旨いものにしか興味を示さなかったような佐内とはまた異なる顔、己の身を委ねる(意味深)ことができる「相棒」を見つけた青年の顔と言えるのではないでしょうか。
(この辺り、直球のBL(衆道?)というよりむしろ変形のブロマンスという印象があります)
人を斬ることと剣を極めること、父の仇を取ること――重なり合いながらもそれぞれ異なる三つの目的を追う中で、それとは無縁にも見える「仲間」や「相棒」を、おっと忘れるところでしたが「愛する人」を得た佐内。しかしそんな積み重ねも、一瞬として失ってしまうのが剣客の生であります。
はたして彼が歩む先に何があるのか――もう毎回最終回目前のようなテンションですが、いよいよ次回決戦でしょうか。ここでまた再来月というのがあまりにも殺生ですが……
それはさておき、別の方向に覚悟を決めた佐内の小悪魔っぷりは、これまで散々彼を翻弄してきた相良が逆に焦るほど。怖いですね、剣客の覚悟……(たぶん違う)
『真剣にシす』(盛田賢司&河端ジュン一・西岡拓哉/グループSNE)
前回、小倉藩の真剣士を下し、晴れて藩の真剣士となった夜市。この時代の小倉藩主は小笠原忠固――作中で語られるように、幕閣入りを目指して要所に働きかけた末に、その負担がもとで藩内で御家騒動・白黒騒動が起こったという、うまくいかなかった場合の水野忠邦のような大名であります。
水野家の方は秘剣を用いた殺し合いがあったりしましたが、こちらは天下博徒御前試合で敗れたのが騒動の遠因――というのが面白いところですが、さてそんなこんなで力が弱まった小倉藩にちょっかいをかけてきた長州藩と、漁場を賭けての争いが今回の勝負であります。
長州側の真剣士は高杉晴豊――何となく高杉晋作チックなビジュアルの人物ですが、そういえば晋作の祖父の名は春豊。もしかしたらモデルなのかもしれません――そして勝負の種目は「海亀」なるゲーム。それも一種の海戦ゲームであります。
プレーヤーは穴の空いた小舟に三つの鍵穴がついた鎖で繋がれ、前と左右、三艘の小舟で沈まないように支えられている状態。そしてその他六艘の小舟に載せた箱の中に、それぞれ鍵を三つ、銃のミニチュアを三つのどれかを入れ、両者一コマずつ舟を進めていくことになります。そこで相手のコマに入ったら相手の宝箱を開けて、銃が出たら相手を支える小舟を攻撃OK、鍵が出たら自分の鎖の鍵を外すことができる――文章で書くとまたえらいややこしいですが、今回はこのルール解説でほぼ終わりとなります。
勝負は次号からですが、やはりお互いの命を賭けての勝負というのはギャンブル漫画の花。一体どういう戦いになるかわからないだけに、期待が高まります。
次回に続きます(全三回予定)。
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