東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第9巻 「残月剣士伝」完結! そして「続……」へ?
毎月刊行が続く漫画版『警視庁草紙』、第九巻でも「残月剣士伝」編が続きます。警視庁側の妨害に苦しむ撃剣会が逆襲の一手として警視庁に叩きつけた挑戦状。はたして意外な形で繰り広げられる決闘の行方は……。そして「残月剣士伝」が完結しても、なおも剣士たちの物語は続きます。
かつての剣客たちの救済のため、榊原鍵吉を中心に始まり、大好評を博することになった剣戟興行「撃剣会」。しかし様々な事情からこれを面白く思わない警視庁は、元新選組の平間重助の献策により、「女剣会」なる怪しからぬ興業をこれにぶつけます。
なりゆきから兵四郎もこれに助力し、完全に閑古鳥が鳴く有様となった撃剣会。しかしそこに謎の雲水二人組が現れ……
というわけで、いかにも曰くありげな雲水が登場、一人は鴉を連れているその正体は――まずは置いておくとして、その入れ知恵で撃剣会は、警視庁側に決闘を申し入れることになります。
といってもいつぞやの騒動の如く、本当の決闘ではありません。撃剣会側は榊原鍵吉を、警視庁側は上田馬之助を代表として行われるのは、兜割り対決――どちらが兜を刀で斬ることができるかという勝負であります。
公平を期するため、山岡鉄舟が提供した兜を斬ることとなった二人の剣士。観客たちが見守る中で繰り広げられる「決闘」の行方は……
剣客たちが意地を見せた撃剣会興業が思わぬ波紋を呼び、様々な思惑が絡んで大事になっていったこの「残月剣士伝」も、いよいよこの巻で一つのクライマックスを迎えることとなります。
ここで描かれる「決闘」についてはほぼ原作通りの展開ではありますが、しかしそこに至るまでのディテールは――挑戦状を巡る撃剣会と警視庁のやり取りはこの漫画版のオリジナル。この部分も十分らしいのですが、榊原・上田・山岡の三剣聖が顔を合わせる場面などは、オリジナルでありつつも、いかにも山風らしさ漂う、意外かつ夢の顔合わせという印象であります。
さて、決闘の方は思わぬ形で決着し、まずはめでたしめでたし――となったはずですが、物語はまだ続きます。いや、原作でもこの後にエピローグともいうべき展開が待っているのですが、この漫画版の方では、なんと「続・残月剣士伝」と題して、さらに物語は展開していくのです。
ここでクローズアップされるのは、彰義隊で死に損ねた兵四郎と、芹沢鴨を同じ新選組に殺されて苛立つ藤田と――二人の剣士の過去。
はたしてこの過去が物語の中でいかに昇華されることになるのか、さすがに藤田はちょっと目立ちすぎでは――という気がしないでもありませんが、しかしこれまでも原作をアレンジしつつも、本作はそれだけのものを描いてきました。
おそらくこのエピソードも次巻で決着のはず、そこで何が描かれるのかを楽しみにしたいと思います。
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