今村翔吾『イクサガミ 地』 迫る宿命の魔剣 そして恐るべき陰謀の正体!
何者かに集められた武芸の達人たちが繰り広げるデスゲーム・蠱毒を描く『イクサガミ』、待望の第二弾であります。骨肉の争いを繰り広げる京八流の兄妹に迫る恐るべき敵とは。そしてついに明らかになる蠱毒主催者の正体と、その恐るべき目的とは――新たなる達人も加わり、戦いは続きます。
明治11年、武芸自慢に金十万円を得る機会を与えるという謎の布告に惹かれ、京都・天龍寺に集まったのは292人の男女。そしてそこで始まったのは、京都から東京まで、参加者たちが互いの持つ札を奪い合うというデスゲーム・蠱毒でありました。
故あって参加した嵯峨愁二郎は、やはり参加者ながら非力な少女・香月双葉を見るに見かねて守ることとなり、不利を承知の二人旅。過去に拾得した秘剣・京八流の技で窮地を切り抜けていく愁二郎ですが、その前に数々の達人たちが立ちふさがります。
忍びの達人であり、二人に同盟を組もうと持ちかける柘植響陣。幕末から凶剣を振るう狂気の人斬り・貫地谷無骨。水際だった弓の技を見せるアイヌ・カムイコチャ。正義と礼節を重んじる公家剣法の達人・菊臣右京。
それだけではありません。愁二郎を狙うのは、四蔵、彩八――かつて彼が兄妹のように育った京八流の同門たちであります。
それぞれが八つの奥義を一つづつ受け継いだ相弟子同士が奥義を奪い合い、最後まで残った者が継承者となる京八流。しかしこの継承戦を愁二郎が放棄して逃げたことで、それは未然に防がれたはずだったのですが……
と、冒頭からラストまでひたすら達人たちの死闘が繰り広げられた『イクサガミ 天』に続く本作では、冒頭からこの京八流の兄弟たちが激突することになります。
前巻のラストで双葉を攫い、彼女を人質に、愁二郎を誘い出した継承候補の一人・三助。しかし彼は愁二郎だけでなく、その他の兄妹たちも呼び出していたのです。
それには理由がありました。愁二郎のような逃亡者を狩るために用意されていた恐るべき剣士――幻刀斎が動きだし、すでに犠牲者が出ていたのであります。しかし時既に遅し、実は蠱毒に参加していた幻刀斎の魔剣が、集まった兄妹たちに襲いかかり……
蠱毒が縦糸だとすれば、横糸というべき京八流の継承を巡る争い。前巻を見れば、最強の四蔵をはじめ、かつては苦楽を共にした兄妹たちが愁二郎に襲いかかるという展開が予想されましたが――しかし彼らの共通の敵というべき幻刀斎の出現に、一気に流れは変わることになります。
一人一人がそれぞれの奥義を持ち、愁二郎や四蔵のように複数の奥義を持つ者までいる兄妹ですら及ばぬ幻刀斎。果たしてこの怪物をどうすれば倒すことができるのか――愁二郎たち兄妹の運命も、思わぬ方向に転がっていくことになるのです。
しかし、その間も蠱毒は続きます。女薙刀使いの秋津楓、異国からやって来た豪剣士・ギルバート(その背負った過去も凄まじく熱い)と、全体の半ばを過ぎてまだまだ新たな強豪が登場し、一体どうなってしまうのか――と思いきや、更にとんでもない展開が繰り広げられることになります。
蠱毒のルールの裏を探るため、別行動を取っていた響陣が知ってしまった、蠱毒の実行者の正体。それはあまりにも意外かつ強大な(そしてそれだけに納得の)ものであります。
およそ抗う術などない相手に対し、愁二郎は思わぬ人物を味方に引き入れようとするのですが、それが更なる混沌を招くことに……
と、詳しいことが書けないのが非常にもどかしいのですが、本作の後半で繰り広げられる展開が、驚愕の一言であることは間違いありません。ここまでくるとデスゲームというより、もはや大仕掛けな伝奇ものというべき展開には、仰天、そして拍手喝采であります。
かくて蠱毒の参加者や幻刀斎だけでなく、蠱毒の主催者をも敵に回して生き残りを賭けることになった愁二郎と同盟者たち。決して戦うのが彼一人ではないのが救いというべきですが、しかし運命は容赦なくある史実へと物語を誘います。
四面楚歌というも生ぬるい状況で、それぞれが持てる力を尽くして生き残りを賭ける――全く非力である双葉の存在が、しかし戦いが激化するほどその重みを増していくのにも驚かされます――愁二郎と仲間たち。
もはやこの国の命運を決するとすらいえる蠱毒の先に彼らを待つものは何か。ついに蠱毒側の切り札も姿を現し、謎は一層深まります。
さらに、ある意味本作全体が登場予告というべき謎の剣士の存在もあり、まだまだ先の見えない『イクサガミ』。完結編である次巻の刊行が待ち遠しくてなりません。
『イクサガミ 地』(今村翔吾 講談社文庫) Amazon
| 固定リンク