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2023.05.21

貘九三口造『ABURA』第2巻 孤軍奮闘、一騎当千の二刀流!

 油小路の戦い特化、しかも御陵衛士サイドからという、極めてユニークな新選組漫画(と呼んでよいものか)の第二巻であります。いよいよ始まった御陵衛士と新選組の死闘の中、早くも出た犠牲者。その犠牲を踏まえて、六人の御陵衛士たちは如何に動くのか。そしてあの最強の男がその力を見せることに……

 新選組を離脱した伊東甲子太郎率いる御陵衛士と、新選組が激突した凄惨な内部抗争・油小路事件。本作はその死闘を、ほとんどその死闘のみを描く作品であります。
 新選組に暗殺され、油小路七条の辻に放置された伊東甲子太郎の亡骸。その亡骸を奪取するために向かった七人の御陵衛士は、そこで永倉新八・原田左之助らが指揮する多数の新選組に包囲されることになります。

 ここで全員が命を落とせば、御陵衛士全てが滅ぶ――仲間を死んでも見捨てないために、誰かが生き残ることを決意した七人は、敢えて敵に後ろを見せ、三方に分かれて脱出することになります。
 篠原泰之進・富山弥兵衛は東手、藤堂平助・鈴木三樹三郎・加納道之助は西手、そして服部武雄・毛内有之助は北手――しかし藤堂は永倉の願いも空しく、二人を逃がすために単身突入した末に、最初の犠牲者に……


 という前巻に続くこの巻では、もうほとんどひたすら戦い戦い戦い。前巻では全体の四割程度が過ぎてから戦いが始まったのに対し、この巻では冒頭からラストまでひたすら御陵衛士と新選組の激闘が描かれることになります。
 いや、この巻の冒頭からラストまで、ほとんど一人で新選組を相手に戦い続けていたのは、服部武雄――この巻の表紙を飾る男であります。

 正直なところ、それ以前の活躍の記録がほとんど残っていないだけに、知る人ぞ知る、という感のある服部。しかしこの油小路での戦いにおける孤軍奮闘、そして一騎当千ぶりで、その名を残すことになります。
 前巻では、油小路への急行に慎重であったり、ただ一人鎖帷子をまとったことを周囲から白眼視されたりと、少々浮いたイメージのあった服部。しかしそれがむしろ熟慮の上であったことは、その後の戦いが示す通り。

 他の衛士が軽装で多勢に取り囲まれた際に不利となったのに対して、防御面では大きなアドバンテージを持つ――そして攻撃面では、実戦において二刀流を操るという、ある意味常識はずれの戦法を見せる。そんなまるで「漫画のような」服部の戦いを、本作は緊迫感と迫力溢れる筆致で描き出します。
 はたして現実ではどうだったのか、それは寡聞にして知識がないのですが、しかしそうでもあろう、とこちらに思わせるような描写で以て。


 しかしもちろん服部も生身の人間、限界というものがあります。そして彼と共に戦い、彼によって逃がされた者たちにも、新選組の刃は容赦なく降りかかります。はたしてその状況下で残る者は、残る物は――次巻、完結であります。

 ちなみに本作では出番はわずかな斎藤一ですが、ここで描かれる姿はなかなか印象的。なるほど、これはこれで説得力ある心理でしょう。


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