「コミック乱ツインズ」2023年6月号
今月の「コミック乱ツインズ」誌は、久々に『軍鶏侍』が登場のほか、特別読切で『口八丁堀』が掲載。表紙は『鬼役』、巻頭カラーは『勘定吟味役異聞』です。今回も、印象に残った作品を一つずつ取り上げます。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
聡四郎が己を裏切った(と思いこんだ)白石と、吉宗の影響力を排除したい詮房の思惑が合致し、伊賀者を紀州屋敷の紅暗殺に差し向けた詮房。直接聡四郎を狙えばよいようなものですが、聡四郎をただ殺すよりも紀州屋敷で暮らす紅を殺した方が、聡四郎と吉宗を反目させ、吉宗の力を削ぐことができる――と、一石二鳥を狙ったものであります。
さらにいえば、聡四郎を暗殺するにはいささかハードルが高い――と思ったのかもしれませんが、しかし上田作品では基本的にやられ役である伊賀者が、御庭番に勝てるかといえば……
というわけで、奇襲したつもりが待ち伏せをされ、ダイナミックに叩き斬られた伊賀者たち。伊賀者側も一矢報いたものの、しかしほとんど完敗に近い結果といえるでしょう。(しかも本来業務である大奥の警護の方では、まだ暗殺者を見つけ出せず……)
そして自分を巡ってそんな死闘が繰り広げられていたとは知らぬ紅は、晴れて聡四郎への輿入れが決まり――と、昨日までハブっていた同僚たちが、突然聡四郎に寄ってくるのは、いつの時代も勤め人というのは変わらぬもので……
『殺っちゃえ!! 宇喜多さん(重野なおき)
ついに三村家親狙撃という前代未聞の挙に出ることとなった遠藤兄弟。家親が無駄にナイスガイっぷりを見せる一方で、遠藤兄弟の方は、思わぬ苦難の連続で――と、今回は土肥経平の「備前軍記」の内容がメインとなっているようですが、ホントにこんな面白展開だったの!? といいたくなるような、コントの如き(もちろん本人たちは必死な)事態が進行することになります。
そんな中で光るのは、火種がなくなった状況からの遠藤弟の文字通り捨て身の機転ですが――さて、今回だけでは終わらなかった暗殺劇の成否は……
『口八丁堀』(鈴木あつむ)
減らず口の口八丁で知られる例繰方同心・「減らず口之介」こと平津内之助が、過去の判例にまつわる論争を「言の刃仕合」で解決(?)するシリーズ第三弾は、自分の刑を重くしてほしいという、それもわずか六歳の咎人の申し出から始まる物語。
そもそも何故わずか六歳の子供が罪に問われ、そして刑を重くしてほしいなどと言い出したのか? それはなるほど江戸時代ならではの理由があるわけですが、心情的にはそれを認めたくても――というわけで、今回は権威を笠に着る同じ例繰方同心・人呼んで「世渡りの沢渡」と内之助は対決することになります。
厳然たる法の論理、しかも前例という権威を前にして、内之助に打つ手はあるのか――切れ味良い逆転劇もさることながら、結局は人情家の内之助の晴れ晴れした顔が印象に残ります。
『カムヤライド』(久正人)
カムヤライド(モンコ)とアマツ・ノリット(コヤネ)、神薙剣(ヤマトタケル)とアマツ・ミラール(イシコリドメ)――ヤマトからの因縁を抱える二組の決戦もいよいよ終盤。相手に打ち勝つため、己の身が散り果てるのも構わずスーツを脱ぎ捨てた天津神二人との死闘は続きます。
超音速の激突の果てに推音速狗(オオトバイ)が大破したカムヤライドは、何だかディープストライカーみたいな新モードで爆走するも、それでもまだノリットには及ばず。一方、神薙剣も、ミラールの奧の「手」によってアーマーを失い――と、それぞれ追い込まれていくことになります。
その窮地からの二人の行動は――この状況でこうくるか、というシチュエーションからの逆転劇にはシビれること間違いなし。そしてシビれるといえば、ヒーローものの華であるマスク割れを見せたカムヤライドが割れたマスクから見るものは/見られるものは――次回必見であります。
次号は、今号お休みだった『暁の犬』と『真剣にシす』が復活。鶴岡孝雄の特別読み切りも掲載とのことです。
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