« 朝松健『一休どくろ譚・異聞』(その一) | トップページ | 朝松健『一休どくろ譚・異聞』(その三) »

2023.05.17

朝松健『一休どくろ譚・異聞』(その二)

 帰ってきた朝松一休、『一休どくろ譚・異聞』の紹介の第二回であります。

「たそかれの宿」
 夜道で姫君を襲い、その顔の皮を剥ぐ殺人鬼・薄香夜叉。しかしようやく侍所が捕らえたその正体は今参局の乳兄妹――うかつに手を出せない相手を罰するため、知恵を貸してほしいと頼まれた一休は、ある悪巧みを……

 殺人鬼をいかに罪に問うか、という内容ながら、その背景に当時の政治状況を強く反映したユニークな本作。
 正直なところ、細川勝元まで巻き込んだ一休の策は痛快であるものの、その時点で、展開的には予想は出来てしまうものが――と思いきや、森の耳を通じてワンクッション置いた上で描かれるクライマックスの迫力は流石というべきでしょう。


「人食い小路」
 侍所頭人・多賀高忠から、奇怪な怪事が頻繁に起こるという人食い小路で自分の妻が姿を消し、彼女が助けを求める夢を見たと聞かされた一休。高忠・森とともに調べに向かった一休ですが、気が付けば奇怪な空間に……

 『血と炎の京』にも登場する「鉞高忠」こと多賀高忠と一休の出会いを描いた本作は、三人が引き摺り込まれた空間の描写の緊迫感溢れる描写が印象に残る一編。
 「たそかれの宿」でも少し触れましたが、特異な感覚を持つ森を間に置くことで、怪異描写に大きなアクセントをつけているのに感心します。

 しかしまあ、同じく鉞高忠が登場する「外法経」との関係は、ちょっと……


「殺生鉤の春霞」
 春霞の立つ晩に出没し、女性たちの喉を掻き切り内臓を抉る殺人鬼の捕縛を、一休に依頼するよう命じられた親元。しかし当の一休は珍しく寝込んでおり、代わりに同行することになった森と共に親元が見たものは……

 作中で鬼の霍乱呼ばわりされるように、一休が故あって(もう少し後の作品参照)ダウンしたために、親元と森が二人で怪異に挑む本作。やはり若い親元ではまだ少々荷が重いか、物語展開的にもかなりシンプルな印象があるのですが――意外な正体を現した殺人鬼に挑む姿は、やはり公儀目付人ならではというべきでしょう。
 しかし、ある意味本作で怪異と同じくらいドキドキさせられるのは、そんな若い親元と森の姿なのですが……(助平爺)


「迷い風」
 親元の友人である石川慶晴から、旅先より奇妙な石像を持ち帰って以来、夢裡に一休を連れてきて欲しいと告げる美女が現れるようになったと聞かされた一休。石川の屋敷に出向いた一休を待っていたものは……

 「白巾」で蜷川家の夕涼みに顔を出していた髭達磨・石川が事件の発端となる本作は、「生きてゐる風」の続編。一休が若い頃の大活劇に比べるとさすがにおとなしいですが、懐かしいアイテムも登場、久々に邪神相手に大立ち回りを演じるのは嬉しいところです。


「むまたま暮色」
 一休が将軍家の紅葉狩りに招かれた留守を守ることになった森に、家主から託された南朝ゆかりの品。しかしそれ以降、奇妙な出来事が次々と起こり、庵にやって来た親元までが不気味な言動を……

 一休がほとんど登場せず、森の「視点」から描かれる珍しい作品。「一休葛籠」でも触れたように、作者が得意とする悪夢めいた体験と、目の見えない森の独特の感覚が相俟って繰り広げられるのは、何とも生理的に厭な物語世界であります。
 そしてそこに火に油を注ぐのは、普段とは別人のような親元のねっとりした責めなのですが――普段が真面目な人間が壊れるとコワいですね(壊れていません)。


「しろがね浄土」
 将軍家の紅葉狩りに招かれたものの、義政のあまりに厭世的な歌に嫌気がさした一休。しかし当の義政の目に映っていた世界と、その未来は……

 というわけで時系列には「むまたま暮色」と同時ながら、こちらも一休ではなく、義政がメインとなる異色作。父を殺され、母や周囲から傀儡として扱われてきた将軍が見た「浄土」とは――様々な作者によって描かれてきた義政ですが、本作は室町伝奇らしい、幻想性と大きな虚しさ・哀しさによって、短くも印象に残る作品となっています。


 次回、最終回に続きます。


『一休どくろ譚・異聞』(朝松健 行舟文化) Amazon

|

« 朝松健『一休どくろ譚・異聞』(その一) | トップページ | 朝松健『一休どくろ譚・異聞』(その三) »