さいとうちほ『輝夜伝』第12巻 三つの繭と二人の台風の目!?
いよいよどこに落着するかわからなくなってきたニュータイプかぐや姫物語『輝夜伝』第12巻は、ついに月詠と竹速が結ばれたと思えば月詠は繭の中で眠りにつき、主人公不在の間に各者の思惑が交錯することとなります。相変わらず母天女の艶様が暴走する中、八咫烏の長老も危険な動きを見せ……
何故か魂だけの状態で復活した末、月詠や火麻呂など様々な人物に憑依して跳梁する月詠の母にして天女である艶。そして月詠は、かつて艶が月に帰るはずの晩、その身を八咫烏たちに封印され、地上に残っていたと知ることになります。
そして艶の身体を探しに出た竹速・大神・滝口の長は、やたらと押し出しの強い八咫烏の長老・金鵄とともに、比叡山で繭と化したその身体を見つけるのでした。
そして月詠と竹速がついに結ばれたまさにその時、月詠は身体から大量に放たれた糸が作り出した繭に包み込まれて……
と、意外な事実の判明・大事件の発生が連続した前巻。何よりも、主人公である月詠が繭の中に入ってしまったのは大変な事態ですが、しかし残された人間たちにとっては、驚いたり嘆いたりする間もありません。
何しろ、一足先に誕生したかぐや姫の繭、竹速たちが持ち帰った艶の繭、そしてさらに新たに登場した月詠の繭を加えて、いま都には三つもの天女の繭があるという、前代未聞の状態なのですから。
しかもその天女たちが、それぞれ帝の想い人と、治天の君の想い人、さらに二人の間の娘とくれば、国の行く末にも影響が出かねません。かくて都では、天女を愛する者、守ろうとする者、甦らせようとする者、さらには滅ぼそうとする者と、様々な思惑を秘めた人々が入り乱れることになります。
そしてその中でも、台風の目となる人物が二人おります。一人は言うまでもなく(?)艶。繭は見つかったものの何故かその中の体に戻れず、未だにごく一部の人間以外には感じられない魂のみで彷徨う彼女ですが、そんな中で新たに見つけた憑依先とは――いやいやいや貴女はそれでいいんですか! とツッコミを入れたくなること必至の相手であります(見境がなさすぎる)。
しかし新たな体で好きなように都を往く彼女が見聞きするものは、あるいは彼女の心に影響を与えるものかもしれません。少なくともここで描かれる治天は、彼女の目からでなければ映らない姿なのですから……
(それにしても、これだけ自由奔放に振る舞う彼女が、こと天女という運命に対してだけは逆らわず受け入れているのが、ユニークにも感じられるところです)
そしてもう一人は、前巻から登場した八咫烏の長老・金鵄であります。神代の昔から帝を守る集団であり、そして今の艶の(そして間接的に月詠の)境遇を招いたことが判明した八咫烏。その新長老である金鵄は、長老といってもまだ壮漢、堂々とした風采と押し出しの強さを持つ、まあ色々と面倒臭そうな人物であります。
しかしそんな彼でも、帝への忠誠心と、長い歴史から受け継がれてきた知識量は本物。繭から出たかぐやを迎えに来るであろう天人を迎え撃つには、可欠の人材であることは間違いありません。
そして竹速のある言葉をきっかけに、天人迎撃の策を思いついたという金鵄。彼が帝の前で演じたデモンストレーションの中で(ノリノリで)見せた、想像を絶する姿とは……
いやはや、当初からの登場人物たちがあくまでも深刻なのに対し(凄王はそうでもないか……?)、艶といい金鵄といい、新しい登場人物たちはえらいテンションが高いのですが――しかしもちろん二人とも大真面目であることもまた事実。そしてこの二人の思惑が結びつき、意外な形で天人迎撃策が成ったかに見えたのですが――しかしそこに横やりを入れるのは、やはりというべきか、あの人物であります。
もちろんそれも愛ゆえではありますが、いよいよ収拾がつかない状況になってきたわけで、そろそろ月詠の復活を期待したいところですが……
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