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2023.05.09

『地獄楽』 第6話「心と理」

 突如出現し、源嗣に深手を負わせた死罪人・陸郎太に苦戦する画眉丸。一方、瀕死の自分を気遣う佐切に、源嗣は彼女の信念と強さの源が「中道」であることに気付き、己の刀を託す。そして初めて二人の力を合わせ、陸郎太に挑む画眉丸と佐切。画眉丸の忍法と佐切の剣技は、大巨人を破ることができるか!?

 おそらくこのアニメ化の折り返し地点になる今回は、備前の大巨人こと死罪人・陸郎太との死闘を通じて、佐切の持つ強さの意味と、佐切と画眉丸が初めて二人で戦う姿を描く、『地獄楽』という物語全編を通じても非常に重要な回。
 内容的にはほぼ全編にわたり陸郎太との死闘が描かれるわけですが、これまで登場した島の化物たちを遙かに上回る耐久力と攻撃力を持つ相手を向こうに回し、ダイナミックな戦いが続いていくのと並行して、佐切の中にあった迷いが昇華され、彼女の真の強さが浮かび上がる描写は、実に見応えがあります。

 と書くと、佐切がメインの回に見えますが、アクション面では画眉丸も大奮闘。これまでその持てる実力を一部しか発揮してこなかった(発揮する必要がなかった)彼が、初めてその能力をフルに発揮することになります。
 しかし初めて本気を出した彼が次々と繰り出す忍法も、全く通じない陸郎太――足元の石を凄まじい勢いで蹴り出す雷礫が太い樹を貫通する一方で、それを正面から受けて微動だにしない陸郎太はなかなか印象的なシーン――の力は驚異的で、これまで一人で戦ってきた彼が、初めて人の助けを必要とするという展開は、この陸郎太の怪物ぶりあってこそでもあります。

 そして佐切サイドですが、前回彼女に色々と厳しい言葉をぶつけた源嗣が、そんな彼だからこそ彼女の――彼女自身もはっきりと気付いていなかった――生き方、彼女の信念に気付くという展開が見事で、そこから彼が佐切に自分の魂に等しい刀を託し、「陸郎太を斬れ 山田浅ェ門佐切」と言葉をかけるシーンは大いに盛り上がります。
 そこから、画眉丸のせめて二人がかりなら→山田浅ェ門ならではの剣で初めて陸郎太に一矢報いる佐切→「手を貸して下さい/くれ」は、今回のハイライトであることは間違いありません。

 それにしても、常識外れの肉体を持つ相手に、同じく常識外れの技を持つ画眉丸では凌ぐのがやっとだったのに対し、どんな相手でも物理法則の常識に従う限り斬ることができる山田浅ェ門の剣法が、その効果を発揮するというシチュエーション設定は見事の一言。そしてそんな佐切のお株を奪うように(?)画眉丸も物理法則に則った策で陸郎太の動きを封じるというのも実に痛快であります。
 さらにその上で、佐切が陸郎太を人間として斬る――いや、斬ることで人間に戻すという結末もまた見事で、これもまた、佐切の到達した境地を象徴するというべきでしょう。


 さて、アニメとして見た場合は、ところどころ作画が不安な感じになるのはこれまで同様(と言ってよいものか……)ですが、しかしそれでも動かすべきところを心得た描写は納得できるものがあります。特に完全に覚醒した佐切が真っ向から陸郎太と刀で打ち合い、全ていなしてみせる場面は、同じシーンを一ページの画で見せた原作とは対照的に、一連の激しい動きで見せることで、佐切の強さを説得力を以て描いていたかと思います。
 また、これまであまり本作のBGMは(何故か)心に残っていなかったのですが、今回は盛り上がる場面に合わせて盛り上がる使い方をされていたのも印象に残りました。音といえばもう一つ、戦いの終盤に陸郎太が噎せる声が本当に苦しそうで、これも結末の説得力を増していたかも……

 というわけで佐切が覚醒し、陸郎太戦が決着というところで一区切り、と思いきや、ラストに浅ェ門でも死罪人でも化物でもない人物が二人、やたらと生々しい感じで登場――というところで終わるのも、良い引きだったかと思います。


 しかし杠が仙汰の本性に意味ありげに言及する場面、その後の描写を見る限り実際には意味がなかったわけで、アニメではカットされるかと思いきやそのまま残っていたのはちょっと意外。この時点の杠の疑い深さを示すためかもしれませんが……
(あと、画眉丸が陸郎太相手に効果がなさそうな忍法に×を付けていくのが字で示されるシーンで、何故か忍法飛頭蛮が複数出るのが謎)


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