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2023.05.26

東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第10巻 真剣勝負! 幕末に死に損ねた男二人

 正編が終了し、続編にまで突入した「残月剣士伝」もいよいよクライマックスの漫画版『警視庁草紙』。撃剣会を巡る騒動も一応の決着がついたかと思いきや、何と兵四郎と藤田が文字通りの真剣勝負を演じることになります。その決着は、そして剣士たちの物語の行方は……

 撃剣会潰しのため、警視庁の後ろ盾を得た平間重助が始めた「女剣会」。兵四郎の思わぬ助太刀もあり、大盛況となった女剣会ですが、これに対して撃剣会側は、兜割り勝負を警視庁に叩きつけることになります。
 撃剣会側は榊原鍵吉、警視庁側は上田馬之助――それぞれ幕末の大剣客を代表としたこの勝負は、上田の不可解な失敗もあり、見事に榊原が兜割りに成功。撃剣会は勢いを盛り返し、これにしてめでたしめでたし――では収まらないのは兵四郎と藤田であります。

 彰義隊に参加して上野戦争で死に損ねた兵四郎と、芹沢鴨の暗殺を見過ごした後悔を抱え続ける藤田――二人は、それぞれ何かに憑かれたように動き出します。
 そして撃剣会において真剣で勝負をしたいと言い出した兵四郎と、その相手に名乗りを上げた藤田。宿敵同士の二人は、激しく白刃を交えることに……


 というわけで、物語がひとまず決着したかと思われたところで始まった、思わぬ番外戦。これまで幾度か刃を交えてきた兵四郎と藤田が、今度は剣道の防具に真剣という珍しいスタイルで激突することになります。

 しかしこの二人が何故、撃剣会の場で真剣を手にしなければならないのか――これはもう、「当てられた」「憑かれた」としか言いようがない、本人たちもおそらくはっきりとはわかっていないのではないかとしか思えません。
 しかし二人とも、如何に普段は飄々とした顔を見せていても、幕末から抱えていた、死に損ねたことへの蟠りが不意に爆発したというのは、これはこれで「らしい」というべきかもしれません。

 ちなみにこの展開はもちろん(?)漫画版のオリジナル。何だかんだいってもちょっと唐突感は否めないところであり、そしてさすがに藤田をフィーチャーし過ぎではないか、という印象はあります。
 とはいえ、上で触れたように防具をつけての真剣勝負というのはかなり珍しいシチュエーションであり、決着もこの戦いならではのもの。そしてそこに全力でツッコミに入るあの人の言葉もよく、これはこれで楽しめたところではあります。


 さて、思わぬ場外乱闘はあったものの、再び物語は本筋に戻ります。撃剣会の仕掛人というべき加賀四人衆、そして撃剣会に肩入れしてきた謎の雲水二人組が東京を離れるのを期に、彼らを捕らえようとする警視庁と、阻もうとする兵四郎たち。
 ピストルまでも持ち出してきた加治木をはじめとする警視庁側に対し、兵四郎側も思わぬ助っ人を連れて妨害に出るのですが――ここで藤田の前に立ち塞がったのは、謎の雲水の一人。そしてついに素顔を見せたその正体は……

 と、この巻でも終わらなかった「続残月剣士伝」も次巻でいよいよ完結。続くエピソードは、そしてこの作品の向かう先は……


『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第10巻(東直輝 講談社モーニングコミックス) Amazon

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