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2023.05.03

冬野ケイ『神様の用心棒』第1巻 漫画ならではのキャラが楽しいコミカライズ

 2023年4月時点で第五作まで刊行されている霜月りつ『神様の用心棒』がコミカライズされました。箱館戦争で命を落とし、宇佐伎神社の祭神の力で甦った青年・兎月が、神様の用心棒として、神社の氏子たちのために奮闘する姿を描く物語の開幕篇であります。

 箱館戦争から十年、函館山の宇佐伎神社で目覚めた兎月。箱館戦争で旧幕府軍として戦い、そこで命を落としたはずの彼は、目の前に現れたツクヨミ(月読之命)と名乗る子供から、思わぬことを聞かされることになります。
 死の間際にウサギを救い、生まれ変わったらウサギになりたいと願っていた兎月。その願いは聞きとげられ、本社から分霊されたばかりのこの神社の神使として蘇ったというのです。

 あまりに突拍子もない状況に戸惑いを隠せないものの、神社を訪れる氏子――函館の住人たちのために一肌脱ぐこととなった兎月。
 しかし兎月にはさらに重要な役割がありました。それは函館山から降りてくる怪ノモノ、人の負の念が凝った魔を斬ること。生前(?)の愛刀・是光を手に怪ノモノを斬る兎月ですが、その中で彼は失っていた記憶の一部を取り戻し……


 というわけで、原作の第一作『神様の用心棒 うさぎは闇を駆け抜ける』を忠実に漫画化した本作。この第一巻ではその前半を描いていますが、シンプルに見えて一ひねり入った物語展開の面白さはもちろん変わりません。
 絵的には、兎月はもう少し尖ったイメージが個人的にはありましたが(しかしそれだけに後半で見せるバイオレンスフルな姿にちょっとびっくり)、柔らかな描線は物語とよくマッチしていると感じます。

 特にツクヨミは、良い意味で漫画チックなデザインが良いのですが――それ以上に感心したのは、神社から外に出るためにウサギに乗り移った時のツクヨミ(というかウサギ)のデザイン。
 正確には現実の見え方とは異なるわけですが、漫画的にはむしろ正解で、この状態のツクヨミと兎月のやりとりの楽しさは、原作以上に魅力的に感じます。

 そして漫画となってキャラクターがビジュアル化されたとくれば、一番気になるのはみんな大好きの「あの人」ですが――残念ながらこの時点ではまだその姿ははっきりとは見えない状態。
 その姿がはっきりと描かれるのはこの先、物語もクライマックスの時であるはずですが――そこでの描写も期待したいと思います。


 ちなみにこの単行本のおまけページには、ツクヨミによる兎月の「完成図」が描かれているのですが――これはもう必見としか言いようがありません。これもまた、漫画化の恩恵なのかもしれません。


『神様の用心棒』第1巻(冬野ケイ&霜月りつ KADOKAWA 角川コミックス・エース) Amazon

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