« 「コミック乱ツインズ」2023年7月号(その一) | トップページ | 栗美あい『白花繚乱 白き少女と天才軍師』第1巻 »

2023.06.21

「コミック乱ツインズ」2023年7月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」2023年7月号のご紹介の続きであります。

『猿の剣』(鶴岡孝雄&濱崎徹)
 特別読切の本作は、我流ながら恐るべき天賦の剣の才を持つ元陸尺の男を主人公とした、索漠とした味わいの一編であります。
 その腕で主君に認められ、陸尺から侍に取り立てられることになった矢先、妻が上役に暴行されて殺され、仇を討って出奔した新八。それから二年、死ぬこともできず放浪していた途中、新八は身を寄せ合って生きる姉と弟と出会うことになります。しかし虐められている弟を助けるために、猿の面を被って悪童を脅かしたことがきっかけで、思わぬ悲劇が……

 凄腕ながら悲劇的な過去を背負い、死に場所を求めて放浪する主人公が、不幸な人々を助けるためにその剣を振るう――というのは時代ものの定番の一つですが、しかし本作の場合、不幸になったのが主人公の行動のため、というのが強い独自性であります。
 しかしそもそもの姉弟が虐げられる理由と描写に説得力が感じられないため、よかれと思ってしたことが裏目に出て――という悲劇性があまり感じられないのが残念なところ。身売りすることになった姉を助ける手段がまた泥縄なこともあり、独自の展開がクライマックスの大殺陣のカタルシスに繋がらないのが残念なところです。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 前回、紅暗殺の企てが大失敗に終わり、かえって聡四郎と紅の婚儀が発表されて逆効果になった感のある新井白石。それでも自分のしようとしたことをコロッと忘れて、聡四郎が自分のところに戻る機会を与えようとするというのは、なんて器が大きいんだ!? と勘違いしそうになります。(しかし思い切り無視されて激怒。やはり器が小さかった)

 それはさておき、ついに聡四郎も大奥へ監査に入ることとなり、俄に慌ただしくなった大奥ですが、その機会に、ついに紀文は送り込んだ暗殺者・庵を動かします。それが成功しても失敗しても命を狙われることは間違いない紀文ですが、もとよりこの国に未練はなく、海の向こうに渡ることを決意していて――と、ある意味本作でもっとも自由だった人物らしい身の処し方であります。
 元々商人の力が強い上田作品世界ですが、その中でも裏の主人公というべき存在感だった(というか強い商人キャラの元祖だった)紀文の退場は、物語の終わりが近いことを感じさせます。

 というか紀文五十歳!? この貫禄で……(途方もない敗北感)


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 ついに今回を含めてラスト三話となった本作。前回は相良との別れ(?)が描かれましたが、今回も冒頭で師範代の岡田(この人が怪しい……そんなふうに考えていた時期が私にもありました)、そしておしまさんとも密かに別れを告げ、もはや佐内は完全に生に拘らない境地に達した感があります。作中でも触れられていますが、死人というよりもこれは死生を離れたというべきでしょうか。より高みに達した印象です。

 しかしそんな佐内の心中にあるのは、ある意味それとは最も程遠い、秘剣を打ち破りたいという、剣客としての望み。そしてそれは最後の敵である坂東孫十郎も同様であります。見かけや態度は佐内と正反対に、尾羽打ち枯らしたという言葉を体現したような有様の坂東ですが、彼の望みもまた、これまで配下の二胴を破ってきた佐内の秘剣に打ち勝つこと――家老の庇護を求めず、わざわざ佐内を求めて徘徊していたのもそのためなのでしょう。
 そしてついに相対した宿敵二人。ここで注目すべきは、坂東もまた、父からこの剣を受け継いだと語られることでしょう。実はこのくだりはこの漫画版オリジナルですが、共に親から秘剣を受け継ぎ、表の顔と汚れた裏の顔を持つ者同士、佐内と坂東は表裏の関係にあると描かれたのは、非常に興味深く感じられます。
(しかし、今の佐内と坂東には大きな違いがあるはず――と、それはこれから描かれるのでしょう)

 そして静かな対峙から一転、凄まじい気迫で動き出す両者。比較的小さなコマで静を描き、大ゴマ・見開きで動を描くというのはある意味教科書的演出かもしれませんが、それが作者の端正な絵柄と合わさるとき、ここまで力を持つのか!? と、今更ながらに心揺り動かされます。
 残すはあと二回、そこで何が描かれるのか、一コマたりとて見逃せません。


「コミック乱ツインズ」2023年7月号(リイド社) Amazon

関連記事
「コミック乱ツインズ」2023年1月号
「コミック乱ツインズ」2023年2月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年2月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年3月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年3月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その三)
「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その三)
「コミック乱ツインズ」2023年6月号

|

« 「コミック乱ツインズ」2023年7月号(その一) | トップページ | 栗美あい『白花繚乱 白き少女と天才軍師』第1巻 »