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2023.07.07

『アンデッドガール・マーダーファルス』 第1話「鬼殺し」

 「怪奇一掃」で怪物たちの大半が滅ぼされた明治30年。東京の見世物小屋で「鬼殺し」を生業とする真打津軽の前に、メイドの馳井静句を連れた美少女・輪堂鴉夜が現れる。津軽の寿命が近づいていると指摘する鴉夜は、取引として寿命を延ばす代わり、津軽に「私を殺してほしい」と告げるが……

 ミステリ作家・青崎有吾の、クロスオーバー伝奇特殊設定ミステリというべき『アンデッドガール・マーダーファルス』のアニメ版がスタートしました。怪物たち、そして様々な文学のヒーロー/悪役が同じ世界に存在する十九世紀末の欧州を舞台に、怪物にまつわる事件を専門とする探偵〈鳥籠使い〉の活躍を描く原作は私も大ファンなだけに、放送を楽しみにしていました。

 この第1話は、原作第1巻の序章と、第一章及び第二章のそれぞれ終盤で語られる内容を合わせて再構成したプロローグ、いわば〈鳥籠使い〉誕生編というべき内容となっています。小説の序章では、津軽のところに鴉夜と静句が現れ、津軽に「私を殺してほしい」と告げるまでが語られ、以降、第一章終盤になって初めて、津軽と鴉夜の「正体」、そして鴉夜のビジュアルが明かされるという演出だったのですが、さすがにアニメではいつまでも伏せておくわけにはいかず、このような第1話となったということでしょう。
 しかしそれでもこのアニメ版第1話に当たる部分は原作では20ページ前後、しかもほとんど津軽と鴉夜の会話のみという内容だったのですが――そこにディテールを追加し、さらに演出を凝りまくることで、奇怪で奇妙で奇矯な物語の開幕編に相応しい内容としているのに感心させられました。

 原作にあるのは、津軽の見世物小屋での「鬼殺し」場面と座長との会話、そして上記の津軽と鴉夜の会話程度で、後はほとんど全てアニメのオリジナルではないか、というところ。津軽と静句の腕比べもオリジナルであります。(静句の実力と絶景の存在が原作で描かれるのは結構後なので、ここで彼女もただ者でないことを描いておくのは好印象)
 そしてこの第1話で妙に印象に残るのは、津軽の「日常」を描くくだり――横流しのビールを手に入れて飲んだくれ、町では怪物だと思われた野良猫を殺してくれといわれ――ですが、この辺りも全てオリジナル。しかし全くそれに違和感はなく、このうらぶれた空気感が、津軽の飄々として浮世離れした人物像に、不思議な説得力を与えていると感じられます。

 それでも、今回のメインとなるのは津軽と鴉夜の二人の会話であります。小説であれば会話文が続いてもさして違和感はありませんが、アニメでは二人の顔ばかり映すわけにもいきません。それを、カットやアングル、背景(二人が貧民街を歩くところまでは原作通りですが、その後の芝居小屋はオリジナルのはず)を様々に変えつつ、時に大仰とも感じられる――こういう表現が適切かはわかりませんが「演劇的な」――演出を用いて、二人が会話だけしているように思えぬ映像として見せたのには、やりすぎ感もありつつ、しかし「笑劇」である本作には似合いと感じます。

 とはいえ冒頭に述べたとおり、本作はミステリであります。この先、「探偵」による謎解きシーンが数多く描かれるはずですが、その場面をアニメで違和感なく描けるのか――この第1話を観る前は少々疑問に思っていましたが、これは期待してもよさそうです。


 そして物語は次回からが本番。公式サイトのキャラクター紹介を見る限りでは、原作の第3巻までをカバーするするようですが、さてどのように映像化するのか――次回からも楽しみにしております。


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