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2023.07.21

『アンデッドガール・マーダーファルス』 第3話「不死と鬼」

 「昼食」の場で、ゴダール卿をはじめとする城の住人たちに、事件当時の状況を尋ねる鴉夜。内部の者の犯行を主張する鴉夜に、驚きと憤りを隠せない一同だが、鴉夜は意に介さない。その後、証拠を調べるためにゴダール卿と夜の森に出た鴉夜と津軽だが、ゴダール卿を吸血鬼ハンターが襲撃する……

 殺人ならぬ殺吸血鬼事件を描くエピソードの中編となる今回は、鴉夜が推理のための証拠集めを行う姿がほぼ全編にわたり描かれることになります。つまりは基本的に地味な内容ではあるのですが、しかしこれまで同様、演出と演技によって、全く退屈することのない、起伏に富んだ内容となっているのはさすがと言うべきでしょう。

 まず前半で描かれるのは、吸血鬼の城ならではの、真夜中の「昼食」――吸血鬼の食事風景というのはあまり想像したくはないものですが、親和派だけあって(?)ある意味非常にスマートなビジュアルとなっているのが面白いところでしょう。
 そしてビジュアルといえば、鴉夜の存在であります。前回既に城の住人たちの前に姿を見せているため、堂々と食卓の上に鳥籠を置いて喋る鴉夜ですが、その姿は牙以外は人間とほぼ同じ姿である吸血鬼とは、比べものにならない、強烈な異彩を放ちます。(そして鴉夜が喋るたびに、いちいちテーブルの下を覗き込む御者さんが微笑ましい。それこそ見世物じゃないんですから……)

 そして次々と城の住人に、当時の状況を尋ねる鴉夜ですが――面白いのはその描写です。モノクロで描かれる過去の情景の中に、(当然ながらその場にはいない)現在の鴉夜と津軽の姿が描かれるというスタイルなのですが、相手の語りという主観的内容を、鴉夜が客観的に吟味するという構造を画で見せているのに感心します。
 もう一つ面白いのは、前回さらりと鴉夜が告げた、馬車の御者の風体に関する推理の種明かしであります。鴉夜が開陳するシャーロック・ホームズばりの推理の内容はもちろんですが、その中で鴉夜が指摘するポイントが絵的に強調されたりと、実にわかりやすく見せてくれるのが楽しい。毎回触れているような気がしますが、ミステリの謎解きを画にする時の難しさを、鴉夜(と津軽)の語りの面白さで見せつつ、動きを含めた画の見せ方で強調してみせるのは、このアニメ版ならではの魅力と言うべきでしょう。

 ただ、ちょっと気になってしまったのは、後半、ゴダール卿と鴉夜・津軽が夜の森で語り合うシーン。ここで吸血鬼の肉体の再生力と比するように、この世で唯一の「不死」の存在と、それを唯一滅することができる「鬼」の存在が語られるのですが――原作ではここで初めて両者について語られることになるのですが、アニメ版ではこの辺りは既に第一話で語られているため、同じ話を二度見せられているという違和感は否めません。
 もちろん、ゴダール卿は不死と鬼の知識がないわけで、ここでそれを知らせておくのは意味があることだとは思いますが、他をアレンジしてここは原作通りにしたため、ちょっと妙なことになったかな、とは思います。自分たちの正体を明かした後の津軽と鴉夜(ここでの口調が絶妙)のやりとりは、二度目だからこそ描けるものではあるのですが……
(もう一つ、ゴダール卿の執事のアルフレッドが、津軽を静句の主人と間違えるシーンは、これも原作通りにしたために不自然に感じられてしまうところです)

 さて、アクション的な意味では、その直後に襲撃してきた人間の吸血鬼ハンターとゴダール卿の対決が今回のクライマックスなのですが――といってもハンター側は奇襲をかけただけで後は何もできず、吸血鬼の凄まじい動きに一方的に追いつめられただけなのですが、しかし吸血鬼という存在のデモンストレーションになったことは間違いありません。
 そしてこの襲撃が決め手となったか、いよいよ謎解きを行うと――津軽の剽げたポーズとともに――宣言する鴉夜。いよいよ次回、解決篇であります。


 あら、原作にあった、鴉夜が重大な事実に気付くシーンがなかったような……


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