« 永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第23巻 人情・猫情・妖情そして旅情の原点回帰 | トップページ | 「コミック乱ツインズ」2023年8月号(その二) »

2023.07.18

「コミック乱ツインズ」2023年8月号(その一)

 「コミック乱ツインズ」8月号の巻頭カラーは山口譲司の新連載『江戸の不倫は死の香り』、表紙は『ビジャの女王』。シリーズ連載や特別読切はなしの、レギュラー陣のみの掲載となります。今回も、印象に残った作品を一作ずつ紹介しましょう。

『江戸の不倫は死の香り』(山口譲司)
 というわけでエロティックな作品を得意とする作者の新連載は、タイトルのとおり、江戸時代の不倫――不義密通を題材とした物語。第1話のタイトルは「お熊」――材木問屋・白子屋の主人の娘であるお熊の不義密通が、多くの人々を巻き込む悲劇となっていく様が描かれることとなります。
 と、書けばお分かりになる方も多いかと思いますが、今回のエピソードのモチーフとなるのは、いわゆる「白子屋お熊」――大岡政談や、浄瑠璃の「恋娘昔八丈」のモデルとなった実話であります。

 左前となった白子屋を立て直すため、多額の持参金付きで婿の又四郎を迎えたお熊。しかし手代の忠八と密通していたお熊は醜い又四郎を毛嫌いし、何とか離縁に持ち込もうとします。
 そこで忠八はお熊の母・お常、女中のお久と共に、又四郎に密通の末に心中しようとしたという濡れ衣を着せ、家から追い出そうとするのでした。そしてその相手には、白子屋に来たばかりの女中・お菊を当てることに……

 と、お馴染みの内容ではありますが、作者の筆によって濡れ場が描かれ、さらに原典にはない忠八とお常の不倫関係まであって、何とも生々しいドラマが展開することになります。その一方で結末はかなりあっさり目に感じられますが、しかしある意味ドラマは最小限に、結果のみをスパッと記して「一件落着」とするのは、かえってそのインパクトを強めていると感じます。
 スタイル的にはこのように実話をベースにした連作になるのかなと思いますが、その題材には事欠かないだけに、この先も生々しいドラマが展開しそうです。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 モンゴル軍打倒の一策として、水の輸送隊を襲撃したブブ率いるビジャ軍。しかしかねてよりモンゴル側と通じるジファルの内通により奇襲は露見、反撃を受けたビジャ勢は潰走することに……

 というわけで、起死回生を狙いながらも大打撃を受けたビジャですが、最大のダメージはブブが深手を負ったことであります。言葉を失うようなその姿に加え、もはや死相の浮かんだ(作者の筆による説得力十分過ぎる表情!)ブブを救うには外科的手術しかありません。
 しかしその技をビジャで心得ているのは、よりによってバグダードの「知恵の館」で学んだジファルのみ。その気になればブブにとどめを刺すのは容易い状況ですが、ブブはジファルが内通者と疑いつつも、敢えて彼の施術を受けることに……

 と、ブブは自らの命を賭けてジファルの心底を見抜こうとしているのかもしれませんが――これはあまりにも分が悪い賭けであることは言うまでもありません。しかしジファルもまた、これまで「知恵の館」が絡んだことでは、不思議な良心とも純粋さともいうべきものを見せてきた男ではあります。はたして思い切りの良すぎるブブの行動の結果は吉と出るか凶と出るか?


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 いよいよ本作も今回を入れて残すところあと二話。佐内と、二胴の真の遣い手であり、佐内の父の仇である坂東と――もはや雌雄を決するしかない二人の最後の対決の幕が、ついに切って落とされました。
 この先盛り上がるしかない、クライマックス中のクライマックスの始まりであります。もう今回の三十ページ以上、全てが死闘、激闘、血闘の連続、よくぞここまで――というほかない剣戟描写には、こちらもひたすら息を呑んで見つめるしかありません。

 そんなわけで今回は語ることがあまりないのですが(手抜きではありません)、そんな中でも印象に残るのは、一瞬の交錯が生死を分ける中で、相手の剣の本質を読み、それに対して己の剣を切り替える剣客の本能の凄まじさでしょうか。
 仮初めの二胴相手の技であったとはいえ、佐内の必殺剣である狼走の太刀をその場の反応で破る坂東。坂東の真の二胴の本質を知り、現在の到達点である狼走の太刀と己の原点を組み合わせた剣を放つ佐内。二人の剣客が極限の状況下で交わす刃が断つものは……

 次回、巻頭カラーで最終回であります。早く一ヶ月経ってほしい!


 次回に続きます(全二回)


「コミック乱ツインズ」2023年8月号(リイド社) Amazon

関連記事
「コミック乱ツインズ」2023年1月号
「コミック乱ツインズ」2023年2月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年2月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年3月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年3月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年4月号(その三)
「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2023年5月号(その三)
「コミック乱ツインズ」2023年6月号
「コミック乱ツインズ」2023年7月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2023年7月号(その二)

|

« 永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第23巻 人情・猫情・妖情そして旅情の原点回帰 | トップページ | 「コミック乱ツインズ」2023年8月号(その二) »