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2023.07.19

「コミック乱ツインズ」2023年8月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」8月号の紹介の後編であります。

『真剣にシす』(盛田賢司&河端ジュン一・西岡拓哉/グループSNE)
 小倉藩と長州藩の代理戦争を演じることとなった夜市と高杉の「海亀」勝負もついにクライマックスであります。自分は穴の空いた小舟に鎖で繋がれた状態で、六艘の小舟に載せられた箱の中の銃と鍵を奪い合い、押しつけ合うという、この「海亀」。非常に簡単にいえば、先に鍵を三つ取ってしまえば負け、先に銃を三つ取れば勝ちという状況で、高杉も夜市も、一つの箱の中に二つのアイテムを入れる、もしくはアイテムを入れないという、ルールのギリギリをついた仕掛けで、白熱の勝負を繰り広げます。

 しかしこのゲームでは一日の長がある高杉にとっては、箱の載った座布団の沈み具合で中身を見抜くことが――沈み方が浅ければ鍵、深ければ銃――できます。しかも前回、夜市は高杉の策で鍵を二つ取らされ、既に後がない状態なのですが――しかしここからが夜市の恐ろしさであります。満腔の自信を持って高杉が取った箱の中身は……
 前回以上にそれはありなのか!? と言いたくなるようなテクですが、しかしきっちり伏線も張られていて(!?)なるほどそうきたか、とひっくり返りました。

 そしてこの戦いの最中、勝手に夜市が、この先生まれる高杉の孫の名前を考えるのですが――やっぱり、とニンマリであります。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 紀文は潔く舞台から降りた一方で、醜い権力争いは、ついに大奥を舞台に最終局面を迎えることになります。柳沢吉保の命を受けた紀文最後の罠というべき、暗殺者・庵が、ついに家継暗殺に動き出したのであります。
 そしてこれも運命というべきか、まさにその日その時、大奥に監査に入っていた聡四郎(この辺りの描写は、何だかお腹が痛くなりそうな緊張感)は、騒動を聞きつけて自ら刀を手に駆けつけることに……

 という展開なのですが、驚かされるのは庵の強さ。紀文の最後の切り札が只者のはずはありませんが、御広敷伊賀者や別式女たちが立ち塞がるのもものとはせず、真っ向から切って落とすその姿は、闇から襲いかかる暗殺者というイメージとはほど遠い強豪ぶりであります。はたしてこの強敵を相手に聡四郎は――と、次回はひさびさに『そば屋幻庵』登場で一回お休みとなります。


『カムヤライド』(久正人)
 この号と同時に発売となった単行本第九巻の内容からすぐ続く今回は、激闘に次ぐ激闘であった人間vs天津神の五対五決戦のエピローグともいうべき内容であります。

 それぞれ、因縁の相手であるカムヤライドと神薙剣を倒すため、己の身が消滅するのも覚悟の上で全力を尽くしたアマツ・ノリットとミラール――しかしその覚悟を、これまでの戦いの、「二人」での旅路の経験が上回るという、激アツな展開の末、戦いについに決着がつきました。
 そしてその間、アマツ・シュリクメを足止めして勝利に貢献したオトタチバナ・メタルですが――こともあろうに彼女の副官であったワカタケが、かつてシュリクメが分離した分身であったことが判明、ワカタケを「戻す」ことによって完全体となったシュリクメの爆導索(仮)によって大陥没が生まれた隙に、天津神たちは退却することに……

 かくて五人の天津神と正面切って(ない人もいましたが)渡り合い、そのうち二人を倒すという大戦果を挙げた人間側。しかしその代償は、決して小さなものではありません。上で触れたワカタケもそうですが、人間の身で神に格闘戦を挑んだあの男も――って、そんなシステムが!? と仰天させられた直後に、思わずグッとくる描写が用意されているのが心憎い。

 そしてグッとくるといえば、アマツ・ノリットの人間体であるコヤネですが――そうと知らぬ間にモンコに惹かれ、そして殖す葬るを通じて全力で戦うことの素晴らしさを知り、そして最初に述べたとおり、カムヤライドに全力で挑んで力を使い果たしたコヤネが最後に取った行動はなんであったか……
 先に触れた人物同様、殖す葬るでの全力プレイが心に遺した、哀しくも爽やかな後味は見事というほかなく、最初はいったい何が起きているのか!? という印象だった殖す葬るに、まさかこんな意味があったとは――というのは師匠(大概不死身だなこの人……)に騙されているのかもしれませんが、やはり見事な結末というべきでしょう。


 次号は表紙が久々登場の『そば屋幻庵』、巻頭カラーは堂々最終回の『暁の犬』です。


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