『アンデッドガール・マーダーファルス』 第2話「吸血鬼」
人類親和派の吸血鬼・ゴダール卿の城で、卿の妻が何者かに胸を杭で刺されて殺害された。警察のおざなりな捜査に業を煮やした卿は、怪物専門の探偵<鳥籠使い>――すなわち、鴉夜・津軽・静句の三人――に捜査を依頼する。かくて城に招かれた鴉夜たちは、早速捜査を開始するが……
というわけでプロローグであった第一話に続き、いよいよ本編スタートとなる今回。前回を見ただけでは想像できなかった方もいるかもしれませんが、ここからは鴉夜・津軽・静句のトリオが、怪物専門の――犯人であれ被害者であれ、怪物が関わる事件専門の――探偵<鳥籠使い>として数々の怪事件に挑むミステリ(もちろん、それだけでは評せないほど様々な要素が含まれているのですが……)となります。
そして今回から描かれるのは、原作第一巻第一章の「吸血鬼」。怪物側の勢力は衰えてきたとはいえ、古来からの吸血鬼と人間の対立がいまだ続く中、人類と共存の道を目指す親和派の吸血鬼・ゴダール卿の居城で、その妻が殺害されて――という、殺人ならぬ殺吸血鬼事件であります。今回のアバンは、この事件の状況が描かれることとなりますが、短い中でさらりと(本当にさらりと)吸血鬼の身体能力の凄まじさを描きつつ、徐々に悲劇の予感を高め、そして卿の幼い娘が無邪気に歌う歌と合わせて惨状が明らかになるという演出は、やはりこのアニメ版ならではのセンスと感じます。
その後も、たとえ親和派となっても周囲の人間からは極めて差別的な目で見られ、警察からもそれなりの扱いしか受けないという状況をこれもさらりと描き、そこから怪物専門の探偵登場の必然性に繋げていく――と、冷静に考えると特殊としかいいようがない状況を、良い意味で淡々と描くのに感心させられます。
そしてここに至るまでに人魚の冤罪を晴らし、人造人間にまつわる事件を解決して――と知る人ぞ知る存在となっている鴉夜たちですが、ここでちょっと残念だったのは原作では第二章の「人造人間」のエピソードがどうやらアニメではカットされるらしいということで、漫画版でも同様だっただけに覚悟していたところですが、やはり寂しいところです。原因は何となく想像がつくのですが……。
(ちなみに人魚の事件については長らく語られざる事件でしたが、このアニメ版スタートとほぼ同時に刊行された原作第四巻でついに描かれています)
さて、前回の紹介でも触れましたが、原作の序章は津軽と鴉夜について最小限のことしか語らず、二人の「正体」と「目的」については第一章(と第二章)のクライマックスで明かされるという構成だったものが、このアニメ版では第一話に集約されることとなりました。そのため原作での、ゴダール家の人々と同様に、観客であるこちらも二人の正体がわからず、それが物語展開につれて徐々に明らかになっていく――という要素がなくなっているのは(仕方ないとはいえ)ちょっと残念なところですが、しかしストレートに物語が展開していくのはそれはそれでもちろん悪くありません。
いや、基本的に津軽のボケと鴉夜のツッコミ(そして静句の物理的ツッコミ)で展開していくので、それをストレートと言ってよいかはわかりませんが、しかしこちらも期待以上にポンポンと気持ちよく、こちらは声優の芝居の巧みさ――特に津軽の気の抜けた喋りは実に良い――によるところがやはり大きいのでしょう。
アニメ化に当たって一番気になっていた、推理(に関係する描写の)シーン――特に今回のラストの、鴉夜が七つの疑問点(のうちの五つ)を挙げるシーンも、前回同様、会話のみで終わらせることなく、動きを付けて不自然さなく描いているのも巧みというべきでしょう。もちろんこの辺りは、このボケとツッコミによる緩急から生まれている部分も大きいわけでもありますが……
なお、実は今回の事件そのものは、凄惨な内容にもかかわらず意外と「静か」――もっともそれが疑問点の一つでもあるのですが――なのですが、この辺りの見せ方もやはり巧みで、解決編にも期待したいと思います。
(もっとも解決編が次回になるのか次々回になるかは、まだわかりませんが……)
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