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2023.08.18

「コミック乱ツインズ」2023年9月号(その一)

 「コミック乱ツインズ」9月号は、表紙が久々登場の『そば屋幻庵』、巻頭カラーはついに最終回の『暁の犬』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介します。

『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 というわけで巻頭カラーという最高の形で最終回を迎えた本作。前回丸々使って展開した、佐内にとっては最後の標的にして父の仇である坂東との決戦はなおも続き、今回も実に冒頭14ページにわたり台詞なしの激闘が繰り広げられることになります。

 佐内がこれまでの死闘で編み出した狼走の太刀をも超える真・二胴に対して、己の原点である富田流の霞返しを加味して挑んだ佐内の一撃の行方は……
 ここから先は何を書いてもネタバレとなってしまうのですが毒食らわば皿までの精神で書いてしまえば、ここから先の展開は、原作にはないオリジナル。いや、原作では描けなかった内容というべきでしょうか。

 その詳細はさすがにここでは伏せますが、物語展開はほぼ同一でありながらも、本作が原作とは異なるアナザーエンディングとなった理由――それは、作中で折りに触れて描かれてきた、佐内と周囲の人々の関係性によるものといってよいでしょう。

 剣客にとって、死合の場において頼れる者は己ただ一人。しかし実はそれだけではない、それだけでは生きていけない――本作の佐内は、刺客仲間や相良たち、そしておしまや満枝を通じて、それを学んできたといえます。そしてそれこそが、彼が無明の闇の中に一人消えることなく、暁を迎えることができた理由なのでしょう。

 歴史の流れの中においては、あくまでも佐内たちはただの走狗、名もない剣客に過ぎません。しかし彼はその流れに押し流されることなく、そこに己自身を見出すことができた――ラストの佐内の表情には、その尊さ、素晴らしいさが表れています。まさに大団円というべき、見事な結末であります。
(しかし突き詰めればアナザーエンディングのキーは相良ということに……)


『ビジャの女王』(森秀樹)
 モンゴル軍に奇襲をかけたはずが内通によって逆襲を受け、腹に深々と槍が突き刺さるという瀕死の重傷を負ってビジャに帰ったブブ。彼を救うためには手術しかありませんが、その技術を持つのは、まさに内通者であるジファルその人のみ……

 ジファルがブブを殺そうと思えば容易いこの状況下で、はたしてブブの運命は? という緊迫した状況から始まる今回。インド墨者の一人・モズを助手に執刀するジファルの行動は――と思いきや、意外にも真摯に施術に及び、ちょっと思いもよらぬ真実も明らかになって、希望の光が差し込みます。
 いやそれどころかモズの言葉(この人も大概呑気)に笑みを見せたりと、ジファルはほとんど二重人格者のような態度を示すではありませんか。

 そして一命を取り留め、ジイ(若い頃はなかなかのイケメン)から、ジファルの過去を聞くブブ。実はモンゴル軍に故郷を滅ぼされた亡国の王子だったジファルは、二十年前、わずか十歳の時に、同年代の供・イーブンのみを連れてビジャに亡命したというのですが――直前にイーブンの名を聞いたジファルがいきなり態度を硬化させたりと、何やら相当ワケありの様子です。
 というか気が早い予想で恐縮ですが、このイーブンに該当しそうな人物がここに一人いるわけですが――さて。


『江戸の不倫は死の香り』(山口譲司)
 江戸の不義密通を題材とした物語の第二話は、湯屋の主人・源助と妻のおしずを巡る物語。幼い頃にそば屋の店主・右衛門に引き取られて育てられ、源助に嫁いだおしずですが、実は彼女は右衛門と男女の関係。嫁いだ後も続くその関係を知らずにいた源助が、ついに真実を知ってしまった時……

 と、文書で書くとそれほどでもない今回ですが、釜を炊くおしずの元にやってきた右衛門が――というくだり(風呂に入っていた連中がそれに気付くシチュエーションも含めて)が実に生々しく、その後の周囲の厭なリアクションも含めて、何とも重いものが残る内容です。
(正直なところ、もう少し源助とおしずの姿を描いておいた方が、ラストのインパクトは強まったとは思いますが……)

 第一話は実話ベースであったのに対し、今回は色々と調べていたものの原話を見つけ出すことができず、どうも創作ではないかと思うのですが、いずれにせよ男女の間の生臭さは変わらず感じさせられる作品です。


 次回に続きます。


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