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2023.08.13

『るろうに剣心』 第六話「黒笠」

 元維新志士たちを次々と惨殺している剣客・鵜堂刃衛。署長の依頼で、剣心と左之助は、刃衛に斬奸状を送りつけられた要人を警護することになる。予告どおり現れた刃衛を撃退した剣心だが、刃衛は次の標的として剣心を選ぶ。周囲に迷惑をかけないように道場を出る剣心だが、薫は彼を追ってきて……

 今回から鵜堂刃衛編に突入したアニメ版。これまでは剣心の敵が地回りや横暴な役人くらいだったのに対して、いよいよ登場した幕末超人の生き残り第一号、実写映画版第一作ではラスボス役を担った大敵であります。ビジュアル的には色々と突っ込まれるガン――じゃなくて刃衛ですが、今回はほとんど変更なし、漫画『キネマ版』での猟奇的アレンジもなしで、至極真っ当な(?)強敵としての佇まいであります。

 さて今回も原作からほとんど変わらない内容となっていますが、前半部分は、刃衛に狙われたいかにもダメそうな高官を剣心と左之助が警護(二日連続で予告状の時間待ちをする八代拓)するくだりですが――高官が雇った用心棒たちの中に、金太郎の腹掛けをしている奴がいるのまで原作通り。しかし原作では一コマで処理されていた刃衛が用心棒たちを撫で斬りにするシーンが、きちんと描かれていたのは、これはこのアニメ版らしいところというべきかもしれません。
(何だか軽めのヌメッとした動きだったのは狙ったのかわかりませんが、それはそれでらしい)

 この刃衛の使うのは、オールド時代伝奇ファンには嬉しい二階堂平法「心の一方」(なにげに、「心の一方」の知名度を上げたりは――してないですかね)。作中の描写が、「史実」とほとんど変わらないという、世界の怪剣・奇剣の筆頭ですが、しかし本作では達人クラスであれば防御・解除可能の扱い。後で剣心が語る刃衛の過去話を聞くとやっぱり幕末の京は人外魔境だと改めて思わされるのですが、当時の新選組から逃げ切ったのはお見事と思うものの、心の一方では(この手のデバフには耐性高そうだとはいえ)左之助も初見で完全には動きを封じられなかったところを見ると、相手と運が良かったのかな――と失礼なことを思わないでもありません。
(というか十年間野放しにするな藤田五郎)

 とはいえ、こういうタイプはしつこいのが定番、刃衛もターゲットを剣心に切り替えて――というわけで、後半で剣心は、刃衛を誘き出すために神谷道場を出て河原に移る(増水した川に落とされたら助からない――などという用心をしている剣心には、さすがは実戦派と妙に感心させられます)のですが、ここで印象に残るのは、なんといっても薫の言動でしょう。

 剣心が道場に帰らず河原に行ってしまったと知り、そのまままた旅に出てしまうかもしれないと涙ながらに飛び出していったり、河原で剣心を見つけるも帰れと説得されると、自分の一番お気に入りのリボンを剣心に押し付けたり――特に後者は何度見ても無茶苦茶な言動なのですが、今見てみると一周回ってこれはこれでリアルに感じられるのが面白いところです。
 普段は明るく振る舞っていても、やはり剣心と自分の住む(住んでいた)世界が違いすぎていることを気にしていたのだな――と感じさせられるところに、それを自分のお気に入りの品(しかも相手には全く関係ない)で繋ぎ止めようという一種の幼さに、どこか切なさを感じさせる薫。そんな彼女を笑顔で受け止める剣心や、仕方ねえなあと笑って見送る左之助は、大人だなあ、とも感じさせられます。
(しかし元妻帯者で28歳の剣心はともかく、19歳の左之助は――まあ、維新の生き残りではあるので)

 が、この何とも初々しいやり取りの直後、いきなり小舟で薫を掻っ攫って去っていく(増水した川の流れの伏線がここで!)刃衛は、これも原作通りなのですが、動きがつくと妙に面白いのがちょっと困ってしまうところ。河原ワラワラと(言ってません)現れて「見たぞ見たぞ抜刀斎!!」と言い放つ刃衛は、ラブコメのキャラのようなノリであります。まあ、その直前のシーンを見るに間違えてはいないのですが……
 「この小娘お前の女と見た!!」と、ダメ押しするような刃衛の台詞が妙に頭に残るヒキで続きます。


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