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2023.08.08

平松伸二『大江戸ブラック・エンジェルズ』第4巻

 江戸の黒い天使たちの物語も快調に巻を重ねて第四巻。この巻で主役を張るのは、あの松田であります。火事が頻発する中、材木問屋・木曽屋の娘・お美世に惚れられた松田。しかし彼は木曽屋の陰に潜む無惨な因縁の存在を知ることになって――と、一巻丸々使っての「木曽屋炎上篇」が展開します。

 浮世絵師になるために葛飾村から出てきたものの、まだまだ絵だけでは食べていけず、その怪力を活かして木曽屋の人足として働いていた松田。そんな中、江戸で最近頻発する火事がまたも発生、雪士たちの住む長屋に迫ったことから、松田は雪士のもとに急ぐことになります。
 雪士たちは無事であったものの、火事の勢いは衰えない状況を見るに見かねた松田は、屋根から落ちた南の壱組の纏持ち・精児から纏を奪い取り、八面六臂の大暴れで火事を止めるのでした。

 もちろん面子を潰されて黙っていられないのは精児たち火消したち。もちろん彼らが集団で襲いかかってこようと松田に敵うはずもありませんが、しまし松田は面子を潰してすまなかったと土下座して詫びを入れ、かえって精児に惚れ込まれてしまうのでした。
 いや、惚れ込んだのは彼だけではありません。木曽屋の娘・お美世も松田にベタ惚れ、実はとんだ色狂いだった彼女は松田に迫りますが――松田が相手にするはずがありません。

 そんな騒動の中で、頻発する火事と木曽屋の間に、黒い繋がりがあると偶然知ってしまった松田。さらに木曽屋とお美世には、意外な過去の因縁が……


 というわけで完全にこのエピソードの主人公である松田。いよいよここでも松田が物語を乗っ取りにきたか――と警戒してしまいますが、しかしこれは、前巻で奉行所の拷問を受けた雪士の傷がまだ治っていないという理由があることは間違いありません。
 ひねくれた見方は置いておくとして、ここでの松田は――特に精児たち火消し相手に見せた態度は――確かに男の中の男としか言いようがないもので、どうしても陰性のキャラである雪士では、なるほどこのドラマは描けなかった、と感心させられます。

 さて、物語の方は、頻発する火事とそこで荒稼ぎする材木問屋――というシチュエーションをみれば展開は大体予想できますし、確かにその通りの内容ではあるのですが、しかしその木曽屋側のドラマを、松田側のそれ以上に丹念に、そして幾つもの捻りを加えて描いているのが印象に残ります。
 血塗られた過去を持ちながらも、今は静かに生きようとする木曽屋。その過去を引きずって生きる息子の秀蔵。二人とは悪因縁としか言いようのない縁で結びついた美世。秀蔵はともかく、他の二人は、悪人と呼ぶのは容易いようでいて、しかしどこか躊躇われてしまう――そんな彼女たちを単純に断罪して終わりとはならないドラマ展開には、正直なところ驚かされました。

 そしてクライマックス――そんな木曽屋一家と松田の運命が、炎が竜のように荒れ狂う火事場で交錯する場面はまさしく圧巻で、「秘密兵器」で炎の竜に真っ正面から立ち向かう松田の姿は、全てが規格外のこの男らしい名場面というべきでしょう。
(しかし松田には事前に何も言わず、兄貴なら扱える! と、この無茶苦茶な秘密兵器を用意してしまう精児は精児で、ヤバい奴としか……)

 もう一つ、雪士や松田に疑いを抱き、マークしてきた火盗改めの冴島とその手下の存在も、松田たちへの一種のカウンターとしてドラマを引き締めているのも巧みなところであって――総じて、本家以上にドラマ面の充実を感じる今回のエピソードには、舞台を江戸時代に移したというだけでは終わらない、ベテランの凄みを見た思いであります。


 それにしても精児、髪型的には飛鳥だったので、花札を飛ばす殺し技を使うのでは、と(タイミング的に)ヒヤヒヤさせられましたが、幸いそんなことはなかった……


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