椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第5巻
クライマックスに向けて絶好調のコミカライズ版『半妖の夜叉姫』、この巻では過去の悲劇と現在の戦いの理由がついに語られることになります。これまで思っていた以上に重い使命を課せられた上に、「朔」で妖力を喪った夜叉姫たちですが、それに負けることなく彼女たちは立ち上がります。
今を去ること五百年前、地球に接近した妖霊星を迎撃する守り手に選ばれた犬の大将と麒麟丸。少年(?)殺生丸が見つめる中、二人の大妖怪は、見事地上に降り注いだ妖霊星の欠片を破壊したかに見えたのですが、――かし妖霊星の真の狙いは、守り手の近親者を狙うことで……
という大いなる悲劇から始まる第5巻。この辺りの展開は完全に本作オリジナルですが、ここで妖霊星とりおんの死を繋げるか! と大いに納得(アニメでの彼女の死因は、あれはあれで虚しさがあってよいのですが)。そして悲しみに暮れる麒麟丸に近づくのは――という展開もまた巧みであります。
そして麒麟丸が禁忌の術法を発動させようとしている一方で、是露のアニメよりもパワーアップした呪いが――というわけで、ここで過去に犬夜叉・かごめ・りんの身に起きた出来事も、一気に説明されることなり、ほぼこの辺りの謎は語られたといってよいでしょう。
もっとも、特に犬夜叉の封印の際に殺生丸が語った言葉など、まだ謎の部分はあるのですがが……
(ちなみに謎といえば、アニメでは何となく出てきて何となく納得させられた阿久留と時代樹について、妖霊星の誕生と絡めて説明されたのは素晴らしい)
もっとも、この殺生丸の謎の言葉関連や、是露の真珠とその作用については、少々情報が駆け足で提示された感はあるのですが……
さて、親世代の物語が語られる一方で、夜叉姫たちの冒険ももちろん続きます。是露の配下が迫る緊迫した状況で、よりによって半妖/四半妖が月に一度妖力を失う「朔」の状態になってしまい大ピンチ――と思いきや、それで収まらないのが彼女たちであります。
かつて犬夜叉が朔で苦しんだのは、彼が一人だったから。いま彼女たちには同じ境遇の仲間がいる――いや、彼女たちを慮ってくれた仲間たちがいる! と、決してこの状況に無力ではなく、それどころか妖力を失ったのを逆用して反撃に転じる様にはグッと来るばかりです。
尤も、幼い頃から様々な訓練を積んでいたせつなともろはに比べれば、とわは不利であります。そのため、今回の戦いでも妙な形で待機状態だったのですが、しかしそこで彼女の秘められた能力が――と、アニメ版でいささか弱かった、とわ自身が他の二人と互角以上に戦える理由を補っているのにも納得です。
そしてもう一つ驚かされるのが、ここで三人の前に立ち塞がる敵が、魔夜中であること――アニメでは愛する人間に裏切られ神宝を奪われたことから暴走した土地神でしたが、ここではその設定を活かしつつ、愛する人のために妄執に囚われて、是露の配下として現れることになります。
もちろん本作のベースはアニメであり、これまでもそのアニメの要素を様々な形で取り入れてきましたが、単発エピソードの敵役をここで持ってくるとは――しかも元のエピソードを活かしつつ、彼と同様に人間の女性を愛した妖/半妖の子である夜叉姫たちと対決させることで、妖/半妖と人間の愛の意味を描き出すのには、ただ唸るほかありません。
そして「神」だけあって、やたらと得られるものが豪華だった魔夜中を倒した余勢を駆って是露の屋敷に乗り込んだ夜叉姫。もちろん是露が早々簡単に打倒できるはずもありませんが――次巻「第一部クライマックス!!!」とあるのはどうしたことでしょうか。
はたして第二部はあるのか――と真っ先に気になってしまうところですが、もちろんその前にクライマックスに何が描かれるのか、それが楽しみであることは言うまでもありません。
それにしても、もろはまでときめかせてしまう、とわの無意識イケメンぶりよ……
『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第5巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス)
関連記事
椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻 これぞコミカライズのお手本、椎名版夜叉姫見参!
椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第2巻 共闘新旧世代 そして親世代の抱える想い
椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第3巻 夢の胡蝶 その真実
椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第4巻 史実とのリンク? 思いもよらぬ大物ゲスト登場!?
| 固定リンク