平谷美樹『賢治と妖精琥珀』の解説を担当しました
本日発売の『賢治と妖精琥珀』(平谷美樹 集英社文庫)の解説を担当しました。あの宮沢賢治が、妖精の封じ込められた琥珀を巡り、怪僧ラスプーチンと対峙するという、奇想天外な伝奇ファンタジーであります。
大正12年(1923年)、前年最愛の妹・トシを喪った痛手を抱えたまま、樺太に旅立とうとしていた宮沢賢治。そこに訪ねてきた男から、賢治は妖精が中に封じられている琥珀を見せられることになります。
かつては二体の妖精が封じられていたものの、二つに割られて片方が失われたという琥珀。以来、怪事が相次いでいるという琥珀を託したいという相手から、賢治は深く考えずに琥珀を受け取るのですが……
という出だしの本作。実は失われた片割れはあのラスプーチンの手に渡っており、賢治は妖精琥珀を狙うラスプーチンと、それを阻もうとする特務機関との戦いのまっただ中に放り込まれる、というお話であります。
というわけで帯に引用いただいてるように、本作は「宮沢賢治にまつわる作品のなかでも、最もユニークなもの」です。賢治という作家は、自分自身がフィクションの題材となりやすい――というのはかねてよりの持論でしたが(その辺りも実例を挙げて解説で語らせていただいています)、それでもこれほどユニークな物語はなかったと思います。
とはいえ本作は奇をてらっただけの物語ではありません。賢治ファンの方はよくご存じかと思いますが、この今から百年前の賢治の樺太旅行は史実――それだけでなく、賢治の人生、賢治の作家生活に大きな影響を及ぼしたものであります。
その樺太旅行を本作がどのように描いているか、そしてそこにどのような意味があるのか、そしてもう一つ、何故賢治は現代に至るまで人々に愛されているのか――解説ではこうした点に触れさせていただきました。
奇想天外な伝奇物語であると同時に、賢治の魂の遍歴を描いた本作。奇想に満ちた時代伝奇小説と骨太の歴史小説を並行して手掛ける作者ならではの、不思議で奥深い物語に、是非触れていただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
『賢治と妖精琥珀』(平谷美樹 集英社文庫) Amazon
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