赤名修『賊軍 土方歳三』第9巻
ついに蝦夷に上陸し、最後の夢を賭けて戦う土方。五稜郭を穫った彼の次なる戦いは松前城――そこで彼を意外な強敵が待ち受けます。時限爆弾を抱え、限られた時間の中、土方たちの活躍は……
会津での戦いに敗北し、榎本武揚の艦隊と合流して蝦夷地を目指すことになった土方と新選組。蝦夷地に上陸し、五稜郭に向けて進軍する中で熊と対決したりしながら、五稜郭を占領した旧幕府軍の次なる目的地は、かつての幕府の北の守り・松前城なのですが……
松前藩が北からの脅威に備えて防備を固めていた松前城。結局それが異国に対して用いられることはありませんでしたが、しかし皮肉にもそれが旧幕府軍に対して、文字通り火を噴くことになります。
しかもそれを率いる人間がただ者ではありません。その名は三上超順――法華宗の僧侶にして松前藩の参謀。その筋骨隆々たる身を僧衣だけでなく軍服に包んで松前城を指揮し、その厳重な防備は、土方たちどころか、海上の榎本艦隊をも苦しめることになります。
しかし新天地を目前にして、土方が簡単に屈するはずもありません。ある意味反則技によって松前城を抜き、超順に迫る土方ですが――しかし本当の戦いはある意味ここからであります。新選組で怪力といえばこの人、の島田魁をもぶちのめす力を持つ超順。これに対して、土方もタイマン勝負を挑むことに……
作中でも触れられるように、力自慢として知られた超順。もちろん史実でも僧侶兼軍人だったわけですが、ここまで彼がフィクションでフィーチャーされたのは、本作が初めてではないでしょうか。
しかもここで土方が「新選組が二度も坊主に負けるわけにはいかねェんだ」と言うのですが、ここでいう一度目とは――と思いきや、なんと拳骨和尚のことなのが嬉しい。拳骨和尚こと物外不遷が椀二つで近藤勇を完封したという逸話は、今ではあまり知られていないのではないかと思いますが、こういう形で取り上げてくれるのは、実に嬉しいところです。
(もっとも、京の仇を蝦夷地で討たれる形になった超順は災難でしたが……)
さて、激闘の末、ついに五稜郭に次いで松前を攻略し、勢いに乗る土方と旧幕府軍ですが、しかし本作の土方はとんでもない爆弾を抱えていることが、前巻明らかになりました。
労咳にかかったということなのか。血を吐くようになった土方。それはあるいは、史実では江戸に置いてきた沖田総司を連れているからこそ起きたことかもしれませんが――いずれにせよ、彼の戦いに一種のタイムリミットが設定されてしまったことは間違いありません。
もっとも、そこですかさず(?)彼を支える美女が登場するのが、また土方らしいという気がしないでもありませんが……
しかしそんな状況下で、新兵器を引っ提げた黒田清隆の影が迫ります。榎本の大失策で開陽丸が失われてしまった旧幕府軍に打つ手はあるのか?
次巻、宮古湾海戦であります。
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