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2023.09.11

松浦だるま『太陽と月の鋼』第7巻

 通力使いたちに攫われた愛妻・月を求める竜土鋼之助の戦いは続きます。下総での博打勝負を突破し、ついに月の姿を己の目で捉えた鋼之助の前に、彼にとっては因縁の相手である夜刀川瞠介とその妹が立ちふさがります。それぞれに恐るべき通力を操る夜刀川兄妹に、鋼之助たちの力は及ぶのか……

 土御門家の当主・晴雄の配下の通力使いたちに攫われた月を求め、高山嘉津間の導きで下総に向かった鋼之助。迷い込んだ賭場で天朸と名乗る男に助けられた鋼之助ですが、実は彼こそは土御門家配下十二天将が一人――恐るべき強運を持つ天朸と、月の命を賭けたサイコロ賭博を余儀なくされた鋼之助は、卜竹の助けで、辛うじて勝利するのでした。

 そして天朸から、月が那須の殺生石にいると聞き、鋼之助一行は那須に飛ぶのですが――ついに再会した鋼之助と月の間に立ちふさがるのは、やはり十二天将の夜刀川瞠介と刮であります。
 鋼之助にとって瞠介は月を攫った相手であると同時に、忠僕の乙吉を殺した仇。因縁の相手を前に、怒りに燃えて挑む鋼之助ですが、通力使いとしてのレベルが違いすぎる相手に、大苦戦を強いられることに……


 前巻ラストで、その意外すぎる正体の一端が明かされた月と、実に第一巻以来の再会を果たした鋼之助。しかしもちろん、ここで鋼之助と月が手を取り合って終わるはずもありません。
 鋼之助の前に現れるのは、これも第一巻以来の因縁である夜刀川瞠介――これまでも嘉津間が語る晴雄との過去編にも登場していた、晴雄の側近的な男です。

 なるほど月と鋼之助の間とは因縁の相手だけあって、その力は絶大――周囲の水を自在に操るという、シンプルにして応用性が高すぎる能力に加えて、コンビで行動する妹の刮は、火を自在に操るという、これまた強敵であります。
 このストレートに強力な二人の敵に対して、その力をこれまで幾度も発現させているもののまだ荒削りな鋼之助一人では、あまりに不利。かくて天朸戦でも大活躍した、相手の心を読む力を持つ卜竹、そして絶対変えられない未来を視るという、地味ながら反則級の力を持つ明の三人が力を合わせることになります。

 そしてまだまだ物語の形が全く見えていなかった第一巻の時点からは想像もつかないような本格的な能力バトルが展開することになるのですが――その内容には大いに手に汗握らされつつも、しかしそれだけで終わらないのは、やはり本作ならではと感じます。


 幾度も述べたように、鋼之助にとっては物語冒頭からの因縁の相手である瞠介。しかし嘉津間の語りの中に登場するその過去の姿は、むしろ悩める晴雄の身を慮る常識人に見えました。しかしそんな彼が、あの時とは大きく変わってしまった主の命を――それが非道なものであっても――唯々諾々と聞いている姿には、少々違和感があります。

 それは単に強い忠誠心のためなのか、あるいは――と思っていたところに描かれるのは、なるほど、と納得させられる理由。(それが、物語の謎の一つの、大きなヒントとなっているのも巧みであります)
 思えば天朸も、その前に鋼之助が戦った蟲使いの斑も、本作の敵役は、いずれも心の中に様々な過去を――彼/彼女たちが体を張って戦う理由を持っていました。

 もちろん、戦う理由があれば良いというものではないでしょう。しかし敵役も含め、登場人物たちがそれぞれの過去を背負って現在ここに居ることを描くのは、過去と現在、時に未来すらも交錯するこの物語において、大きな意味があると感じます。


 しかし、相手がどのような過去を持とうとも、鋼之助には譲れないものがあります。そのためには、時に卑劣とすらいえる手段も厭わず用いるしかないのですが――その果てにさらに恐るべきものを解き放ってしまうとは。
 月との再会も束の間、絶対的な窮地はまだ続きます。


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