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2023.09.01

山根和俊『黄金バット 大正髑髏奇譚』第1巻

 おそらくは日本最初のスーパーヒーローである黄金バットがまさかの復活であります。大正時代を舞台に、軍部に接近する太古の邪神ナゾーに挑むため、黄金髑髏の怪人・黄金バットの依代となった青年軍人・月城の戦いが始まります。

 軍の極秘任務で、とある洋館の住人の殺害に向かった青年軍人・月城竜史と、その先輩・笹倉。しかしうら若き美女に見えた任務対象は、眉間を撃ち抜かれたにも関わらず笹倉に逆襲して殺害、その手で月城の心臓をも貫くのでした。
 もはや死を待つばかりとなった月城の前に現れたのは、マントをまとった黄金の髑髏怪人――黄金バットと名乗る怪人に依代に選ばれた月城は、傷一つない身で甦るのでした。

 自分たちを殺したのが、太古の邪神・ナゾーを崇める教団の巫女と知った月城。彼は軍部の極秘技術により機械人間として甦った笹倉と共に、軍部の一部勢力に接近するナゾーの配下たちに戦いを挑むのですが……


 昭和初期に紙芝居で初登場して人気を博し、戦後には絵物語や映画、アニメとして復活と、百年近く前からその命脈を保つ黄金バット。おそらくは日本最初のスーパーヒーローでありつつも、高笑いする黄金の髑髏という、「怪人」と呼んだ方が相応しいような、強烈なビジュアルの存在であります。
 正直なところ、私も辛うじて触れたことはあるのがアニメのみという状態ですが――その意味ではほとんど初めて触れたこのヒーローは、これまでの版とは全く異なる新たな設定ということもあり、新鮮な気分で楽しむことができました。

 何よりも特徴的なのは、主人公・月城と黄金バットが二心一体という点でしょう。もちろん、人間の主人公と、人外のヒーローが二心一体というのは決して珍しいものではありませんが、それが黄金バットで、というのが面白い。黄金バットは月城と常に行動を共にしているものの、しかしその姿を見ることができるのは基本的に(この巻の後半に登場するバットの眷属を名乗る幼女・マリーなどを除けば)彼自身のみ。
 なるほど、あの強烈なビジュアルが普段から街を歩けば大変なことになりますが、主人公のみが姿を見て、言葉を交わせるというのは、これはこれで異様なもので、それが黄金バットの不気味さにマッチしているようにも思えます。

 そしてユニークなのは、かつては神と呼ばれたという黄金バットと一体化することにより、月城からは人間的な感覚が失われ、その一方で黄金バットの方は、どこか人間くさくなっていく点でしょう。
 黄金バットの特徴の一つである高笑いは本作でも健在ですが、それが月城の存在を通すと、何やら極めて虚ろなものとして聞こえてくるように感じられます。
(特に銭湯に行った月城と黄金バットの会話シーンは印象的です)


 その一方で、物語展開が起伏に乏しい印象で、基本的に月城と笹倉が二人でいるところに向こうから襲ってくる、二人が任務に出た先でナゾーの配下と対決するというパターンの繰り返しなのが、少々残念なところです。
 また肝心のナゾーの力の大きさ、そして何を企んでいるかが現時点ではあまりよく見えない――主人公側も任務が来ないと動かない存在なので、相手の謎を積極的に追うわけでもない――ため、いささか緊迫感に欠ける印象もあります。

 もちろん、それでも物語の諸処に本作ならではの魅力があることは事実でありますし、特にラストには、黄金バットのライバルといえば――のあのキャラクターが登場するのも、気になるところです。
 この先、月城と黄金バットがどのような戦いを繰り広げるのか、追いたいと思います。


『黄金バット 大正髑髏奇譚』第1巻(山根和俊&神楽坂淳ほか 秋田書店チャンピオンREDコミックス) Amazon

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