「コミック乱ツインズ」2023年10月号(その一)
号数の上ではもう10月の「コミック乱ツインズ」、表紙は『鬼役』、巻頭カラーは『真剣にシす』、特別読切は『懊悩寺おつとめ日鑑』となります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。
『真剣にシす』(盛田賢司&河端ジュン一・西岡拓哉/グループSNE)
いよいよ調所広郷との「菱刈勇士」勝負に挑む夜市。簡単にいえば黄金6個と障害3×2個がある中からランダムに提示され、その内容を踏まえて、さらなる黄金を求めて「進む」か、そこまでの収穫でよしとして「退く」かをプレイヤーが選択するという内容であります。(ちなみに同じ障害が二度出ると死ぬ(物理的に))
つまり二人のプレイヤーに対して提示されるものは同じ、異なるのはプレイヤーそれぞれの選択のみと、ある意味非常に平等かつ、プレイヤーの判断が試されるゲームなのですが――逆にいうと、プレイヤーにできるのは進むか退くかの二択のみ、あとはランダムに進行するので盛り上がりに欠ける印象です。
しかも(というかこれが盛り上がりに欠ける最大の理由なのですが)広郷は、確率論的に負けない選択を繰り返すという、数学得意キャラにありがちなしょっぱいプレイを堂々とやってくるので、味方のはずの藩主まで何だか虚しくなってきている状況であります。
ついには観客の薩摩武士たちから、夜市に対するチェストコール(これはこれで無責任)が出る有様ですが、しかし勝負には勝たなければ意味がありません。もはやゲーム終盤、広郷に点差をつけられた夜市に打つ手は――強運とか勝負度胸以外の打開策を見たいところです。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
ついに動きだした紀文の暗殺者・庵。警護の者たちをものともせず、将軍家継を一直線に狙うその凶刃の前に、管轄違いは覚悟の上の聡四郎が立ち塞がって――と、将軍暗殺という、ある意味ラストにふさわしい展開を迎えた本作。しかし越権の咎めは覚悟の上とはいえ、さすがに刀は抜けない聡四郎は思わぬ苦戦をすることになり、結局勝負は御広敷伊賀者が決することになります。
しかし、ここで聡四郎が家継を守ったことで伊賀組も首が繋がり、組頭ももう聡四郎を狙わないと宣言、敵ばかり増える本作においては珍しい和解か――と思いきや、勝手言うなと聡四郎は不快感を示します。言われてみれば確かに勝手に襲ってきて勝手に和解というのも迷惑な話。とはいえ、これも一つの結末であることは間違いありません。
その一方で、将軍暗殺騒動を尻目に柳沢吉里配下の忍びはまんまと目的を果たしましたが、これがどう転ぶのか。そしてもはや勝者の余裕の吉宗の後をつける永渕の動向も気になるところであります。いよいよ残すところは後二話――完結目前であります。
『懊悩寺おつとめ日鑑』(芳家圭三)
江戸の大寺院で修行する青年僧・道慎が、当時の仏教界のウラを垣間見るシリーズ連載、今回の題材は通夜参籠。寺の参籠堂に泊まり込み、夜通しで勤行をするというものですが、寺にお泊まりということで、まあ予想がつくように奥女中などに悪用されたとも言われております。
もちろん道慎には無縁の話ではありますが、ある晩使いの帰りに彼が助けたのは、傷を負った奥女中。実は彼女は寺社奉行・槙坂淡路守家中の武士の娘で……
というわけで今回は人名を見ればわかるように、脇坂淡路守が裁いた谷中延命院一件をモデルにしたエピソード。しかし本作のメインは事件が解決してから、そして物語の中心となるのも、事件を解決に導いた女性――道慎が助けた仁枝であります。
父に「報いを受けさせてほしい」と自ら願い、文字通り体を張って調べを行った仁枝。彼女の心底にあるものは――と、ここからの人情話はなかなかに読ませます。
道慎の覚悟と長老の情け、仁枝の父の想い――それぞれが絡み合ってのラストの通夜参籠の使い方に唸らされた次第です。
次回に続きます。
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