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2023.09.04

東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第12巻

 いよいよクライマックス目前の漫画版『警視庁草紙』第12巻は、「幻燈煉瓦街」編がラストまで描かれます。銀座煉瓦街で起きた奇怪な密室殺人事件は、思わぬ大乱闘に発展。しかもそこに参戦するのは、なんと……

 隅のご隠居、河竹黙阿弥、幸田鉄四郎少年と銀座煉瓦街に出かけた兵四郎。からくり儀右衛門のオルゴールやら、奇妙なのぞきからくりを見物した兵四郎たちですが、その晩に怪事件が起こります。
 夜毎三味線の音が響くという噂の調査に出かけたお馴染みの巡査たちは、件ののぞきからくり会場で首を裂かれた男の死体を発見。しかもそれは、のぞきからくりの題材となっていた尾去沢鉱山の醜聞の張本人だったのです。

 当然疑われるのはのぞきからくり一座ですが、夜は戸締まりされている上に、昼はまさしく衆人監視の状態。そんな「密室」に忽然と死体が現れたからくりとは……


 怪事件に翻弄される警察の鼻を明かすため、兵四郎たちが謎解きに乗り出すという、ある意味原点回帰の感もある今回のエピソード――しかしミステリとしてなかなか魅力的な内容であるものの、実は謎自体はこの巻の冒頭で、兵四郎たちが解き明かすことになります。

 それではその後に描かれるのはといえば、この事件が生んだ巨大な波紋というべき大乱闘――被害者の背後にいた元・大蔵大輔の井上馨が、川路大警視が事件捜査にのらりくらりとしているのに業を煮やし、鉱山のあらくれ山師たちを引き連れて、銀座に押し寄せてきたのであります。

 山師たちに襲われたのぞきからくり一座の中に、いつぞやの事件で知り合った東条青年がいることを知った兵四郎も助太刀に加わり、さらに大入道めいた一座の座長も参戦するも、多勢に無勢。のぞきからくり側が叩きのめされて終わるかと思われたその時――諸肌脱いで助太刀に現れたのは、どこかで見たようなみなさんではありませんか!

 井上の横暴に憤る中、大警視の「お上から賜った制服で出向いたら、警視庁の名に傷が付くわい」という言葉をバカ正直に解釈して(?)駆けつけた巡査たち。かくて呉越同舟、背中を合わせて戦う宿敵同士ですが、それでもなお劣勢は覆せません。しかしその時立ち上がったのは……


 というわけで、いかにもこの漫画版らしく、派手な展開となった「幻燈煉瓦街」編。原作でもこの乱闘は描かれるのですが、しかし展開はだいぶ異なり、警視庁の助っ人やその後の展開もなし。つまりこの巻のかなりの割合は漫画オリジナルなのですが、警視庁にスポットを当てるのは、本作らしいアレンジといえるでしょう。

 しかしその一方で、原作では描かれた大入道の正体がすっぽり抜けていたり、河内山宗春の仲間の――というくだりに説明がなくてちょっとわかりにくい結果になっていたり(原作はこの点が、もの悲しくも粋なオチになっていたのですが)と、いささか不満も残ります。
 アレンジはアレンジでもちろんよいのですが、原作の肝心な部分は活かしておいてほしい――というのが正直なところで、なんとも勿体ない結末になってしまったように思います。
(もちろん、それも原作との比較においてではありますが……)


 そして物語はこの巻のラストから最終章「泣く子も黙る抜刀隊」に突入。いきなり最終章!? という気持ちは非常にありますが、泣いても笑ってもこれでラスト、次巻最終巻を待ちたいと思います。


『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第12巻(東直輝&山田風太郎ほか 講談社モーニングコミックス) Amazon

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