« 「コミック乱ツインズ」2023年10月号(その二) | トップページ | 夕木春央『時計泥棒と悪人たち』(その一) »

2023.09.17

『るろうに剣心』 第十一話「壮烈の般若・創痍の式尉」

 恵を奪還すべく観柳邸に突入した剣心たちの前に立ち塞がる般若。拳法の達人である般若の技に、剣心は思わぬ苦戦を強いられる。一方、左之助は全身に傷を持つ巨漢・式尉に単身挑む。正面からの力自慢同士の勝負を繰り広げるも、式尉の強烈な攻撃に追いつめられた左之助が、式尉に返した言葉は……

 雑魚を一層し、いよいよ御庭番衆との一対一のバトルがという、少年漫画の王道展開が繰り広げられる今回、勝負の一番目は剣心対般若であります。
 これまでも幾度となく顔を見せ、一度は剣心の刀を受けてみせた強敵ですが、その技は拳法。素手の武術ですが、左之助の素手ゴロとは明確に異なる動きで描かれている上に、その後に明かされる技の正体を思うと、何となく伏線(?)が感じられる動きとなっているように感じられるのが面白いところです。
(決着シーンは一瞬の交錯で見せてしまうのはどうかなぁと思いましたが、やられた!? と思いきや――パターンなのでこれは仕方ないか)

 一方、二番目となる式尉戦は、「ここは俺に任せて先に行け!」パターンで左之助が残っての戦いとなりますが、バトルの内容的にアレンジが入っているのが楽しい。原作ではあっさり鎖鉄球を手放してしまった式尉ですが、ここでは男の決闘はこれだよな、的に鎖を使ってのチェーンデスマッチを提案――といっても左之助がデスマッチのスタイルを理解しないうちに式尉が攻め立てて、ジャーマンスープレックスまで決めてしまったのは、これはむしろこういう不意打ちのテクニックだったのでは、という気がしないでもありません。
 そして戦いの決着は、原作は左之助の真っ向からの拳一発だったのに対して、こちらでは思いっきり階段の上から吹き飛ばしたところを追いかけて、一緒に飛んで落下しながらさらに拳を顔面に叩き込んで床に叩きつけるという説得力がありすぎる(普通は死ぬ)フィニッシュだったのにも驚かされました。

 しかしこの二番のバトルに共通するのは、剣心たちと御庭番衆、それぞれの「動く理由」の違いでしょう。特に左之助が式尉相手に語っていたのが明確ですが、自分自身のために戦うのか、他人のために戦うのか――観柳邸に向かう前に、左之助自身が剣心に問われた内容ではありますが、彼の心の中でも再確認できたということでしょうか。
 もちろん、この先の物語の中で、御庭番衆には御庭番衆なりの理由があったことは語られるのですが、しかしだからといって不幸な人間を生み出したり犠牲にしてはいけないよね――というのは甘っちょろい戯れ言なのですが、しかし自分の血を流してもそれを貫くのが剣心という人間なので……

 しかしそんな信念のぶつかり合いが描かれる中で、ダントツで情けないのは観柳。アニメオリジナルの描写で、監禁された恵の部屋の前にやってきて、哀れっぽく一緒にやり直そうと訴えかけ(ドアを開けないのは何故かといえば、蒼紫に鍵を取られたから、という理由が最高)、聞き入れられないとみるや、全責任を恵に押しつけて駄々をこねる醜態は、私利私欲とか自分勝手という言葉しか浮かばない、ある意味名シーンではありました。
(前半の切々と訴えかけるシーンは、ちょっと雅桐倫倶っぽくて、おっ、と思ったのですが――ちょっとでも期待した拙者がバカだったでござる)


 というわけで三者三様の「動く理由」が描かれた今回ですが、いよいよ残るは大将戦、剣心対蒼紫のみ――というところで次回に続きます。
(が、蒼紫のところまで律儀に弥彦を抱えて走ってきた剣心がちょっとオカシい……)


『るろうに剣心』4(Blu-rayソフト アニプレックス) Amazon

関連サイト
公式サイト

関連記事
『るろうに剣心』 第一話「剣心・緋村抜刀斎」
『るろうに剣心』 第二話「東京府士族・明神弥彦」
『るろうに剣心』 第三話「活心流・再始動」
『るろうに剣心』 第四話「喧嘩の男・相楽左之助」/第五話「そして仲間がまた一人」
『るろうに剣心』 第六話「黒笠」
『るろうに剣心』 第七話「人斬りふたり」
『るろうに剣心』 第八話「逃走麗女」/第九話「御庭番強襲」
『るろうに剣心』 第十話「動く理由」

|

« 「コミック乱ツインズ」2023年10月号(その二) | トップページ | 夕木春央『時計泥棒と悪人たち』(その一) »