霜月りつ『帝都ハイカラ探偵帖 少年探偵ダイアモンドは怪異を謎解く』
『神様の用心棒』から約三十年後、舞台を函館から東京は銀座に移して繰り広げられる探偵物語であります。名門パーシバル商会の血を引く美少年探偵と、その秘書の青年が挑むのは、怪奇な、そして人の心の暗がりを描くような事件の数々。そしてその先に探偵が求める真実とは……
時は明治四十四年、銀座に探偵事務所を開設した少年ダイアモンド・パーシバル。中学生になったばかりながら、人並み優れた観察眼を持ち、先祖代々のドルイドの血を引く彼は、ある目的から探偵となったのですが――しかし学業優先で日曜しか開業できないため、閑古鳥が鳴いている状態。
今日も幼い頃から身近に仕える専属秘書の青年・久谷十和と無聊をかこっていたダイアモンドは、千里眼実験の催しの看板を見つけ、好奇心から十和を連れて足を運ぶことになります。
はじめは疑いの目で見ていたものの、舞台で後ろを向いた状態から次々と正面のものを当てる少女・瑪瑙を本物だと信じるダイアモンド。その瑪瑙は舞台上で突然、銀座のどこかの店に盗人が入ると予言するのでした。
折しも銀座を騒がす、頭の前後に二つの面を被った強盗団・両面宿儺――予言通りにこの両面宿儺が強盗に入ったことから、瑪瑙は評判を呼ぶことになります。見えないものが見える者同士親近感を抱いたダイアモンドは、瑪瑙と友達になるのですが……
箱館戦争から十年後の函館を舞台に、神の手で死から甦って神社の用心棒となった青年の奮闘を描いた『神様の用心棒』シリーズ。このシリーズには、ドルイドの血を引く外国人商人アーチー・パーシバルと、その姪のリズ(エリザベス)がレギュラーとして登場しますが――同じ世界の約三十年後の物語である本作の主人公・ダイアモンド少年は、リズの妹の子という設定であります。
本作は、そのダイアモンドが、私立探偵として活躍する連作。探偵といってもまだ十二歳ですが、その視える目と切れる頭、そして幼い頃から忠実に使える十和たちに助けられて、不可思議な事件に挑んでいくことになります。
上で紹介した第一話「少年探偵と超能力少女」に続く第二話「隠れん坊の幽霊」では、ダイアモンドは品川の幽霊屋敷の調査に当たります。
屋敷を建てたイギリス人家族が不幸にも次々と亡くなり、次に屋敷を手に入れたアメリカ人夫妻は殺し合いの末に亡くなったというこの屋敷。その次に手に入れた日本人も、ひどい頭痛と幽霊に悩まされた末に入院し、新たな所有者から依頼されたダイアモンドは、勇躍屋敷に乗り込むことになります。
そしてラストの第三話「黄昏の馬車」では、彼は自分が探偵を志した理由である、ある事件の手掛かりを掴むのですが……
自分を「吾輩」と呼ぶのも微笑ましいダイアモンド少年(しかし実はそこにはある切実な理由が……)と、彼を幼い頃から「坊ン」と呼びつつ忠実に使える十和。そんな二人のやり取りを見ているだけでも、本作は楽しい楽しい作品であります。
この辺りの呼吸は、『神様の用心棒』と変わらぬ楽しさであることは間違いありませんが――しかしそれだけではありません。この楽しいキャラ配置とやり取りの一方で、彼らが対峙する事件は、シビアで、人間の心の昏い部分を描くものばかりなのですから。
思えば『神様の用心棒』も、人情やアクションをふんだんに描きつつ、様々な意味でドキッとさせられるような、厳しく重いものを描いてきました。そのスピンオフである本作も、そのテイストを存分に受け継いでいるのであります。
というか第一話から、いきなりの地獄風味でさすがに驚かされた(もう少し手加減しても)のですが――しかしその一方で、どのエピソードも、こうした重い部分と、泣かせる部分の塩梅が絶妙なのは流石というほかありません。
特にハッとさせられる形で、鮮やかに哀しみを昇華してみせる第三話の見事なラストなど、相変わらず緩急自在の描写には、感情を揺さぶられまくった次第です。
そんなわけで、『神様の用心棒』の世界観とテイストは踏まえつつ、新たな舞台で、新たな世界を展開してみせた本作。『神様の用心棒』だけでなく、こちらの物語ももっと読んでみたい――そんな佳品であります。
ちなみに本作には『神様の用心棒』のキャラクターが一人、レギュラーとして登場します。なるほど、キャラ同士の関わりにしても、キャラとしての面白さからも納得の人選なのですが――やっぱりまだ独り身なんですかね?(ゲス顔
『帝都ハイカラ探偵帖 少年探偵ダイアモンドは怪異を謎解く』(霜月りつ マイナビ出版ファン文庫)
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