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2023.11.10

『るろうに剣心』 第十九話 「津南と錦絵」

 内務省爆破を目論む月岡津南と行動を共にする左之助。しかしその前に現れた剣心によって津南の炸裂弾は全て防がれ、左之助も津南を力づくで制止するのだった。しかし意識を取り戻した後、内務省前で自決すると激昂する津南。その後を追った左之助は、津南と拳を交える……

 二話に渡ることとなった月岡津南編、原作から考えると時間的に結構余るのでは――と思いきや、何と今回はほぼ後半全体がオリジナルという展開となりました。

 赤報隊時代の友人である月岡克浩、今は絵師の津南と再会した左之助。しかし津南はニセ官軍として十年前に処刑された相楽隊長の恨みを忘れず、自作の炸裂弾でテロを準備中であり、左之助もそれに誘われて――というのが前回の展開。
 それを受けて、今回津南と左之助が内務省の敷地に侵入してみれば、そこで待ち受けていたのは剣心であります。立ち塞がる剣心に炸裂弾ラッシュをかける津南ですが、剣心に及ぶはずもなく、見るに見かねた左之助が当て身を食らわせて津南の家に連れ帰り、剣心は炸裂弾を処分することに――という展開の後、原作では左之助に諭された津南がテロを断念する結末になるわけですが、今回のアニメではそこに至るまでのさらなる悶着が描かれます。

 意識を取り戻してみれば炸裂弾は全て奪われ、テロの手段はなくなった津南ですが、何と内務省で抗議のため切腹し、明治政府の悪業を告発しながら死んでやると激昂。それが民衆の心を動かし、政府への不信の種になる――と大変なことを言い出した津南は、「そんなに都合良くいくかよ!」と身も蓋もないツッコミを入れた左之助の前から、いきなり煙幕弾で姿を消して家から脱出します。
 しかし津南は、その直後に警官にどこに行く? と誰何されて、「どこへ行けばいいんだろうな……」と切ないことを言ったと思えばまた煙幕! もう煙幕おじさんの異名をつけられそうな勢いの津南をようやく見つけた左之助は、もつれあった末に(たぶん)以前剣心と決闘した河原に転がり落ちます。

 そこでお前は裏切った、俺の十年を返せと好き勝手言う津南にさすがに怒りだした左之助ですが、何と津南は左之助と素手ゴロ勝負を宣言。「お前は俺に勝てたことは一度もないだろう」とあまりに自信満々な津南ですが、実は左之助並みの腕前!? そこに炸裂弾が加わったら猛者人別帳に載ってしまうのでは!? と一瞬思いましたが、もちろんそんはなずはなく、ボッコボコにされることになります。それでもお前は十年間何をしていたと詰る津南に、この十年の間に、薫・弥彦・恵――世の人びとは懸命に新しい時代を生きていると答える左之助。そんな人びとが集まった昨日の宴会こそ、隊長が目指した四民平等の姿だと……
 さらに津南のやろうとしていたことは「無駄だ! 迷惑だよ!!」という左之助の火の玉ストレートに、ついに津南も膝を折ります。そして帰り道、津南は、かつて隊長に「お前はお前のやり方で戦え」と言われたことを思い出し……


 と、かなり力を入れて描かれた今回の津南のエピソード。その過去自体は左之助と重なるとはいえ、人斬りではない、しかし幕末を引きずった彼のドラマは、やはり明治ものとして印象に残るものであることは間違いありません。
 そんな津南と左之助を分けたものは、世間や他者との関わりだったのでしょう。そしてその他者との関わり(平和な共存)こそが相楽隊長の理想であり、前回描かれた原作よりも面子が増えた宴会は、やはりその象徴と感じます。

 そんな中でちょっと異質な(左之助も明治を生きる人々の中に入れていない)剣心は、その頃、炸裂弾を一生懸命埋めていたのですが、ここでも印象的なオリジナルのシーンが描かれます。
 炸裂弾を全て埋めたと思いきや、一発のみを火を付けて空に投げ上げる剣心。炸裂弾を埋めるというのは、ネガティブな過去との決別の象徴だとは思いますが、その炸裂弾が夜空を、暗闇を明るく照らすというのは、過去が現在に光明をもたらす、一つの希望の姿といえるのではないでしょうか。


 さて、Cパートではこれまたオリジナルで内務省の最奥が描かれます。結局剣心と津南の戦いの後のみしか知らない人間たちが、あれは志々雄一派の仕業では!? と慌てるのはちょっと可笑しいのですが、大久保卿は川路大警視に、さらなる警戒を命じて――と、ここで初めて志々雄真実の存在が語られたのは目を惹きます。

 なるほど、これを受けていよいよ斎藤一が――と思いきや、何と次回は第零幕の、それも前編。正直なところ全く予想していませんでしたが、ちょうど来週に零幕収録の文庫が出ますし……


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