桃山あおい『物怪円満仕置録』 五十四番目の関所が見張るものは
昨日ご紹介した『新月の皇子と戦奴隷 ~ダ・ヴィンチの孫娘~』の桃山あおいによる、くらげバンチ 第18回くらげマンガ賞奨励賞受賞作の時代伝奇活劇であります。江戸時代、記録に残らない関所・円満関を舞台に、関の番士である少女・湯羅が、恐るべき物怪と対決する姿を描きます。
時は享保、江戸時代に各地にあった関所のうち、記録に残された五十三に含まれない五十四番目の関所・円満(えんまん)関。武州郊外にあったこの関は、手配中の凶賊であっても素通りさせてしまうため、円満素通りとなどと陰口を叩かれる宿であります。
その責任者である伴頭・骨ヶ原閻の下で番士を務める少女・黒鉄湯羅は鰻を頭から生で食べてしまうような変わり者(?)。今日も変わらぬ関所の毎日に退屈していた湯羅ですが、そこに異常な「もの」が持ち込まれます。
それは二日前に村人たちが根切りにあったという武州渡貫村で発見された、村人たちの遺体――いずれも腹のみを切り裂かれ、肝が抜かれた骸、そして全身の皮を剥がれた子供の骸でした。
骸の状況から、この遺体は唐の悪鬼・画皮の群れの仕業と見抜いた骨ヶ原。折しも関所に現れた子供を、画皮が化けたものとして捕らえた骨ヶ原と湯羅ですが、そこで現れた敵の正体とは……
記録に存在しない、江戸幕府五十四番目の関所という、何とも興味をそそる円満関を舞台にした本作。
江戸時代の関所が本来であれば検問のために置かれたものであるにも関わらず、「人間」は誰であろうと素通りさせてしまうこの関所が見張るものは――それは言うまでもありませんが、なるほど面白い設定であります。
(作中の描写によれば、高輪の大木戸と箱根関所の間にあるということで、なるほど江戸の最終防衛ラインだと想像できます)
さて、本作はその円満関の近隣で人を喰らってきた物怪との対決を描く物語ですが、冒頭で四匹の物怪が描かれたにも関わらず、関所に現れた物怪が化けたと思しき人間は一人だけ。はたして残りは――という捻りも面白く、そこから一気に突入するバトルと、そこに重ね合わせて描かれる湯羅(好きな方であれば、名前からその出自は何となく想像できるでしょう)のドラマもなかなか盛り上がるところであります。
いかに記録に残らぬ存在とはいえ、幕府の機関である関所を舞台に、湯羅のようなキャラクターをどう配置するか、というのは工夫のしどころですが、そこをクリアしつつ、一種の人情を絡めて盛り上げるのは、本作の工夫といえるでしょう。
(クライマックスで明かされるダブルミーニングにも納得)
そんなわけで、短いながらもなかなか面白い作品ではあるのですが、唯一これはどうかなあ、と思っていたのは、比較的デフォルメの効いた絵柄にもかかわらず、妙に残酷描写がリアルな点でしょうか。
冒頭で切り裂かれた人体をカラーで描いた部分だけでもなかなかキツいのですが、中盤のある描写は、これを正面から描くのか――と引いたというのが正直なところではあります。
(ちなみに作者のpixivで冒頭部分が掲載されていますが、「※流血表現注意」の記載とともに、R-18G扱いになっています)
もちろん内容的にそういうシーンがあるのは仕方ないのですが、結果として読者を狭める結果になるのは、ちょっと勿体ないと感じてしまったのが正直なところであります。
『物怪円満仕置録』(桃山あおい くらげバンチ掲載) 掲載サイト
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