清音圭『化け狐の忠心』第2巻 人と狐の両片思い、これにて完結
戦国時代のとある国を舞台に、厳しい立場に立たされながらも心正しく生きる領主の嫡男・直澄と、どこまでも真っ直ぐな彼の姿に惹かれてしまった傾国の妖狐・玉藻の想いの行方を描く物語もこれにて完結。自分の存在が直澄を危うくしかねないと知りつつも、彼を巡る陰謀の存在を知った玉藻の選択は……
かつて数々の国を傾けた末、封印された化け狐・玉藻。戦乱の中で解放された玉藻が再び暴れ回ろうとした矢先、彼女は若武者・梅多直澄と出会うことになります。
自分を戦乱で焼き出された女性と思いこみ、城に置いた直澄を利用しようとした玉藻ですが――直純が実の父や継母から命を狙われていると知った玉藻は、思わず直純を守ってしまうのでした。
そんな日々を過ごすうちに、直純から離れがたくなっていく玉藻。しかし、直純の血の繋がらない叔父であり、切れ者として知られる幸満から正体を疑われることとなった玉藻は、化け狐の自分が近くにいれば、直純の立場を危うくすると悟ることに……
という、狐の美女と人間の武士の間に生まれた想いの行方を描く本作。文字通り玉藻の毒気を抜くほどの清廉さを持つ直澄ですが、それだけに生き馬の目を抜く戦国の世を渡っていくには危なっかしすぎる彼を守るための玉藻の奮闘は、相変わらず続くことになります。
何しろ直澄の両親自体が彼の最大の敵という状況の上、一見彼の味方のように見える幸満も何やら怪しく、家中での彼の立場はほとんど四面楚歌。そんな彼を救うために、彼を食い物にしようとしていた玉藻が、配下の妖怪たちを動員してまで頑張ってしまうのが、おかしいというか微笑ましというか、何ともニヤニヤさせられるのですが……
しかしこの巻では、直澄の周囲で怪しげな陰謀が動き始めることになります。自分の嫡男を廃しようとするくらいですから、支配下の国でも人望のない直澄の父――そんな彼を遂に除かんとする動きが出るのですが、彼らが代わりに直澄を戴こうというのが大問題。
何しろ直澄は自分の命が狙われても相手を信じようとするお人好し、ましてや相手が自分の父親であれば、そんな動きに乗るはずもありません。
しかしそれでも彼をのっぴきならぬ立場に追い込もうとする奸策の存在を知った玉藻は、見るに見かねて自ら動こうとするのですが――しかし玉藻が直澄を救うためには、自らの化け狐としての力を見せなければなりません。
しかし化け狐の正体を顕せば、直澄が自分を側に置いておくはずもない――その玉藻の悩みこそが本作の最大のクライマックスであるといえるでしょう。
(この陰謀が、成功した方が直澄にも玉藻にも利があるというのが、また巧みなところであります)
自分が恋する相手の側にいられることを選ぶか、相手の身と心を守ることを選ぶか? これはある意味、人間と異類の恋愛ものでは定番の、そして究極の選択ではありますが――しかしその答えは常に決まっているのもまた事実。それではその答えを選んだ結果は……
まあ、直澄と玉藻は両片思いである、というのを思えば、結末は見えているのですが――本作の場合、それは誰もが望む、唯一の結末であることもまた事実でしょう。
正直なところ、終盤の展開はトントン拍子過ぎる気もするのですが、美しいファンタジーとしては、これでよいのだ、と大きく肯くほかありません。
むしろ本作の場合は、もっと甘々にしてよかった、というか両片思いの間をもっとじっくり描いてほしい、あるいは物語のその先をもっと描いてほしい、という気持ちにもなるのですが、しかしそれは野暮というものかもしれません。
単行本の巻末に収められたおまけを見れば、その想いの一端は、十分に満たされるのですから……
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