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2023.11.27

安田剛士『青のミブロ』第11巻 迫る対決の時 そして二人の悪友の悪巧み

 アニメ化も決定し、キャストも次々と明らかになってきた本作ですが、連載の方はいよいよ一つのクライマックスに差し掛かります。周囲の思惑も意に介さぬように暴走を続ける芹沢と、彼の排除の意志を固めた土方。両者の対立が深まる中、間に立つ新見は、思わぬ決断を下して――いよいよ対決の時が迫ります。

 隊士の増強を行い、本格的に活動を開始したミブロ。しかしそんな中でも、先だって大坂の力士と乱闘を起こした芹沢の行状は改まらず、いよいよ試衛館一派との溝は深まります。
 そして御所と目と鼻の先にある大和屋の焼き討ちという暴挙に出た芹沢に対し、会津藩からも暗に排除の命が出たこともあり、ついに動き出す土方。しかし芹沢の影響力は大きく、八月十八日の政変でもその将器を見せつけた彼を、正面切って排除することは困難というしかありません。

 そんな中、ただ一人芹沢のもとを訪れる新見。幼馴染であり、芹沢のことを誰よりも良く知る新見が語る言葉は……


 これまで数々の戦いをくぐり抜け、着実に力をつけてきたミブロ。揃いの羽織を身につけ、隊士も増え、(住民からの目はともかく)不逞浪士の取り締まりに邁進し、八月十八日の政変でも存在感をしたこの時期は、後の新選組の活躍に向けて、力を蓄える期間であったといえるかもしれません。
 さらに言えば、その期間の締めくくりが、芹沢の暗殺であったのもまた事実でしょう。そしてこの芹沢暗殺は、様々な新選組ものにおいて一つの(さらに結構な割合でラストの)クライマックスとして描かれてきました。

 本作がこれから迎えるのもまさにそのクライマックスではありますが、しかし本作のそれが他と異なる印象を与えるのは、芹沢、そして新見のキャラクター描写に拠るところが大きいことは、間違いありません。
 粗暴で気分屋、しかし剣の腕は超一流でカリスマ性が高い――そんな一般的な芹沢のイメージを、本作も踏まえて描かれています。その一方で本作の芹沢は、どこか茶目っ気が感じられる、それでいて筋の通った武士らしさもあるという、いささか複雑な人物として描かれてきました。

 要は、ミブロにとっては色々と困った人物ではあるけれども、頼れる兄貴分的な存在――それが本作の芹沢といえるでしょう。しかし(元々そういう面は多分にあったとはいえ)、それが何故目に余るほど暴走を始めたのか――その答えはまだ明確には描かれてはいませんが、単純な暴走ではないことは明らかであります。
 しかし、それでも芹沢を排除しなければならない――その事実は、大人たちよりも、におや太郎という少年たちに重くのし掛かることになります。そしてその視点がまた、本作ならではの芹沢像をより印象付けているのは間違いありません。

 しかし、本作がさらに独自性を感じさせるのは、新見の存在であります。これまでの新見像といえば、芹沢の悪党仲間か腰巾着という印象が強くありましたが――本作の新見は、極めて理知的で、芹沢の傍らにはいながらも、その暴走を憂い、監察として牽制する(ように見える)という、ユニークな立ち位置にあります。
 しかし新選組ファンであればよくご存じのように、新見は芹沢よりも前に、文字通り詰め腹を切らされたはず。それを本作においてどう描くか――それはこの巻の時点ではまだ明らかになってはいないのですが、それに至るこの巻のラストのエピソードには、こうくるのか!? と驚くと同時に、本作であればこうなるだろうと、二人の悪友が悪巧みの最中に見せる実に楽しそうな笑顔に、大いに納得させられるのです。

 そしてついに後戻りはできなくなったミブロ。それぞれの立場からこの事態に向き合うことになった面々は、何を想い、どのように動くのか――この先の展開から、一時たりとも目を離すことができません。


 なお、この巻に収録された「かくれんぼ」と「僕の名前」の二つは、登場人物の一人称で始まるエピソード。どちらもある意味反則的な結末を迎えるのですが、それだけに強烈に印象に残ります。
 特に「かくれんぼ」は、あまりのやりきれなさに、できれば二度と読みたくないと思ってしまうほどの内容。しかし後編にあたる「蛍の光」ともども、本作の芹沢を描くには欠かすことができないエピソードであることは間違いありません。だからこそまたやりきれないのですが……


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