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2023.11.04

『るろうに剣心』 第十八話「左之助と錦絵」

 赤べこの妙から頼まれ、月岡津南なる絵師の錦絵を買いに絵草紙屋に行った左之助。そこで津南が描いた赤報隊の相楽隊長の絵を見た左之助は、津南が赤報隊時代の友人だと気付く。津南のもとを訪ねた左之助だが、彼は密かに炸裂弾を準備し、内務省へのテロを計画していた。協力を求められた左之助は……

 今回描かれるのは、原作では番外編と銘打たれた左之助主役編、というより、原作きってのオーバーテクノロジーの持ち主であり、後に(間接的に)志々雄真実の野望を挫く男・月岡津南の登場編であります。
 ――と、アレなファンからネタ的に扱われることの多い津南ですが、今回は原作に幾つかのオリジナルシーンを追加することで、なかなか印象的な物語となっています。

 物語の展開は、上で触れた通り、赤べこの妙に頼まれた幕末の隻腕の剣士・伊庭八郎の錦絵を頼まれた左之助が、店で自分たちの姿が描かれた相楽総三の錦絵を見つけて、月岡津南=以前の仲間だった月岡克浩だったと気付き――という、原作そのままのもの。
 左之助が喧嘩屋というアンダーグラウンドな稼業を営みつつも(内心はともかく)結構明るく楽しくやっていた一方で、津南は錦絵師という職に就きながらも、たった一人で孤独に爆弾テロを計画していた、という対比がなかなか印象的な構図であります。

 もちろん、仮に津南の炸裂弾が軍艦を数発で沈没させるほどでも、たとえ中央官庁の中でもさらに中枢の内務省だとしても、官庁を一つ焼き払って後は周囲の蜂起待ちというやり方で国が転覆するはずもなく(まあ、慌てて志々雄一派が蜂起して大変なことになった可能性もありますが)、その辺りは実は作中屈指のクレバーさを持つ左之助が危惧する通りだというほかないのですが――しかし、それも幕末の修羅場を、幼い頃に経験してしまった(幼い頃にしか経験していない)が故の哀しさというべきなのかもしれません。

 この辺り、ある意味ガキ大将がそのまま大人になったような左之助に対し、変に考えすぎて大人になってしまった津南で対照的という気もしますが――ここで印象に残るのは、アニメオリジナルの回想シーンであります。
 相楽隊長に銃の腕を褒められつつも、これからは武器を持つのではなく勉学に励め、新しい赤報隊を作れと諭されるくだりは、彼の火薬の素養の由来を描くだけでなく、相楽の理想と、その相楽の死によって津南の現実とが哀しくも乖離してしまったことをを浮かび上がらせるのですから。
(しかしここで火薬でなく銃のスキルツリーを伸ばしていたら、リボルバーでガン=カタ絵師が誕生していたのか……)

 そしてその晩、左之助が神谷道場を借りて宴会を開き、津南を招くのも、原作ではいつもの面子+妙と燕だったのを、こちらでは左之助の舎弟や近所の人たち、そして恵を招くという形になっているのが面白い。ここで舎弟たちと恵の和解が描かれるのも目を惹きますが、一番印象に残るオリジナルシーンは、やはり津南が剣心を絵に描くくだりでしょう。
 ここで初めて、剣心がかつての維新志士であることを知り、一瞬敵意を燃やす津南ですが――気持ちを落ち着けたように描いた剣心の姿は、顔に十字傷がある他は、目も口もないのっぺらぼう。これに対して津南は「俺は見たものを描く。この男は見えん。その笑みの下にあるものが、傷の奧にあるものが見えん」と語るのですが、これは津南がその芸術家の感性でもって、剣心の本質を捉えてしまったのでは――と思えば、何ともゾクリとさせられるではありませんか。

 さて、宴もお開きとなり、客は帰っていつもの面子は道場で眠りについた中で、立ち上がる津南と左之助。あるいはこのアニメ版で左之助がいつもの面子に加えて様々な人々を招いたのは、津南に社会との関わりを感じさせるためだったのかも――とも思いましたが、しかし時既に遅く(?)津南はテロルに向かい、そして左之助も行動を共にします。
 しかし剣心がそれに気づかぬはずもなく――というところで次回に続くというのはちょっと驚かされるところで、原作では全三話だったもののちょうど二話目までで続くとは、次回は一体どうするのか。もちろん、オリジナル描写でドラマをさらに掘り下げてくれるのであれば、大歓迎であります。

 こうして今回見直してみると、原作の中でもかなり「明治もの」的な味わいが濃厚に感じられるエピソードであるだけに……


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