« 「コミック乱ツインズ」2023年12月号 | トップページ | 高橋留美子『MAO』第18巻 遭遇、華紋と白眉 そして新御降家の若者の歩む道 »

2023.11.20

山本功次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵』 シリーズ初、待望の(?)密室殺人!?

 江戸で起きた事件を現代の科学で捜査する『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』、その第十弾は、おゆう待望の(?)密室殺人。衆人環視の茶室で起きた殺人事件の謎に、おゆうと鵜飼、そして千住の先生が挑みます。何かと茶に絡む事件の真実とは……

 源七親分とともに、行方不明になった公事宿の客・徳左衛門を探すことになったおゆう。しかし徳左衛門はほどなくして川から死体で発見され、おゆうたちは事件として調べを始めるのですが――その矢先に鵜飼とおゆうは、南町奉行所の内与力・戸山から呼び出されるのでした。
 茶問屋の清水屋に招かれて、他の茶問屋とともに、根津の寮を訪れた戸山。ところが、その清水屋が茶室で殺されたというのです。

 しかし当の戸山が、清水屋が躙り口から茶室に入るのを目撃したほかは、誰かが茶室に出入りすればすぐわかる状況であったにも関わらず、茶室に出入りした人間はゼロ。そんな事件を内々に事件を捜査することになったおゆうたちですが、いわば密室殺人という状況に捜査は難航することになります。
 それならばと千住の先生こと現代の友人・宇田川を招いて調査を行ったおゆうは、寮の中で意外なものを発見するのでした。

 さらに最初に殺された徳左衛門が、茶問屋に茶を買いたたかれて苦しんでいた茶農家であったことを知ったおゆう。一連の事件の背後には、茶問屋に対する冥加金の値上げがあることを知ったおゆうですが――彼女たちが事件を追って向かう先々には、同様に事件を調べる謎の武士が現れるのでした。
 さらに拐かしまで発生し、いよいよ複雑さを増していく事件。おゆうは清水屋の寮に秘密が隠されていると睨むのですが……


 冒頭で触れた通り、記念すべき第十弾となった本作で描かれるのは、シリーズ初の密室殺人。初というのはかなり意外な気もしますが、現代ではミステリマニアだったおゆうが、自分が密室殺人を手がけることになって、(不謹慎を承知でも)テンションが上がるのは何となく納得できます。

 しかもその舞台が茶室というのが面白い。出入り口が限られた狭い空間で、如何にして殺人が行われたのか――しかも、奉行所の内与力をはじめとする衆人環視の下で、というのはなかなかに魅力的な謎ではありませんか。
 もちろん、それに対して正攻法(?)で挑むばかりではないのが本シリーズ――密室は本当に密室だったのか確認するため、ファイバースコープを持ち出すのは序の口、地中レーダーまで投入するやり過ぎ感は、本シリーズならではの魅力といえるでしょう。

 もっとも、科学捜査だけで全てが解決するわけではないのは、これまで同様であります。むしろ捜査によって深まってしまった謎を解決するのは、あくまでもおゆうの頭の冴え――特に今回は複数の事件が錯綜した上に、謎の(時代設定を考えれば何者かは想像がつくかと思いますが……)お忍びっぽい武士まで参戦するという、ある種の賑やかさが楽しいところです。


 しかしもちろん本作の最大の魅力は、先に述べた密室殺人のトリックであることは間違いありません。詳しくは明かせませんが、なるほど、これもまた一つの密室――といいたくなるような設定の妙には唸らされました。
 そしてそれだけで終わらず、最後まで残った謎の意外な真相も実に面白く、まずミステリ味としては、シリーズでも屈指の内容といってよいのではないでしょうか。

 そしてもう一つ本シリーズのお楽しみといえば、ラストの「えっ」と驚かされる一捻りですが――さすがに鵜飼のモノローグは苦しくなってきたかな、と思いきや、今回はその先に別の人物のモノローグが……
 実は作中で「おや?」と思っていた部分がここに来て見事に決まり、あっと驚く新展開。おゆうを巡るドラマも、まだまだ盛り上がりそうであります。


『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵』(山本巧次 宝島社文庫) Amazon

関連記事
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』 前代未聞の時代ミステリ!?
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤』 現代科学でも気付けぬ盲点
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢』 科学捜査でも解き明かせぬ思い
山本 巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ』 新機軸! 未来から始まる難事件
山本 巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ドローン江戸を翔ぶ』ついにあの男が参戦!? 大波乱の捜査網
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北からの黒船』 江戸に消えたロシア人を追え!
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 妖刀は怪盗を招く』 鼠小僧は村正を盗むか?
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ステイホームは江戸で』 時空探偵、コロナ禍に悩む!?
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 司法解剖には解体新書を』 なるか史上初の司法解剖!?

|

« 「コミック乱ツインズ」2023年12月号 | トップページ | 高橋留美子『MAO』第18巻 遭遇、華紋と白眉 そして新御降家の若者の歩む道 »