「コミック乱ツインズ」2023年12月号
号数でいえば今年ラストとなる「コミック乱ツインズ」12 月号は表紙が何と『江戸の不倫は死の香り』、巻頭カラーは『鬼役』。『勘定吟味役異聞』が最終回を迎える一方で、、ラズウェル細木『大江戸美味指南 うめえもん!』がスタートします。今回も印象に残った作品を紹介しましょう。
『ビジャの女王』(森秀樹)
ジファルの過去編も終わり、今回から再び描かれるのは、ビジャの城壁を巡る攻防戦。そこで蒙古側が繰り出すのは、攻城塔――重心が危なっかしいものの、装甲を固め、火矢も効かないこの強敵を前に、ブブがまだ戦線に復帰しないビジャは窮地に……
しかし、インド墨者はブブだけではありません。そう、モズがいる! というわけで、これまではその嗅覚を活かした活躍がメインだった彼が、ついに墨者らしい姿を見せます。攻城塔撃退に必要なのは圧倒的な火力、それを限られた空間で発揮するには――ある意味力技ながら、なるほどこういう手があるのかと感心。ビジュアル的に緊張感がないのも、それはそれで非常に本作らしいと感じます。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
ついに今回で最終回、「父」吉保の置土産である将軍暗殺の企ての混乱の中で、徳川家の正当な血統の証を手に入れた柳沢吉里。しかしその証も、事なかれ主義の幕閣の手で――と、大名として残る吉里はともかく、ある意味同じ幕臣の手で夢を阻まれた永渕にとっては、口惜しいどころではありません。
死を覚悟した永渕は、最後に聡四郎に死合を挑み、最終回になって聡四郎は宿敵の正体を知ることになります。聡四郎にとっては降りかかる火の粉ですが、師の代からの因縁もあり、ドラマ性は十分というべきでしょう。
しかし既に剣士ではなく官吏となった彼の剣は――と、最後の最後の決闘で、彼の生き方が変わったこと、さらにある意味モラトリアムが終わったことを示すのに唸りました。
そして流転の果てに、文字通り一家を成した聡四郎。晴れ姿の紅さんも美しく(吉宗は相変わらず吉宗ですが)、まずは大団円であります。が、もちろんこの先も聡四郎の戦いは続きます。その戦いの舞台は……
(と、既にスタートしている続編の方はしばらくお休み状態ですが――さて)
『口八丁堀』(鈴木あつむ)
特別読切と言いつつ先月から続く今回、売られていく幼馴染を救うために店の金に手を付けた男を救うため、店の主から赦免嘆願を引き出した例繰方同心・内之介。しかしその前に切れ者で知られる上司が現れ――という前回の引きに、なるほど今回はこの上司との仕合なのだなと思えば、あに図らんや、上司は軽い調子で内之介の方針を承認します。
むしろそれで悩むのは内之介の方――はたして法度を字義通りに解釈せず、人を救うために法度の抜け道を探すのは正しいのか? と悩む内之介は、いつもとは逆に自分が責める側で、イメージトレーニングを行うのですが――その相手はなんとあの長谷川平蔵!?
という意外な展開となった今回。正直にいえば、二回に分けたことで、内之介が見つけた抜け道のインパクトが薄れた気がしますが――しかし、ここで内之介が法曹としての自分の在り方を見つめ直すのは、彼にとっても、作品にとっても、大きな意味があるといえるでしょう。単純なハッピーエンドに終わらない後日談の巧みさにも唸らされます。
『カムヤライド』(久正人)
東に向けて進軍中、膳夫・フシエミの裏切によって微小化した国津神を食わされ、モンコたちを除いて全滅したヤマト軍。そして合体・巨大化した国津神が出現し――という展開から始まる今回ですが、ここでクローズアップされるのは、フシエミの存在であります。
かつてヤマトでモンコに命を救われたというフシエミ。その彼が何故モンコの命を狙うのか――その理由には思わず言葉を失うのですが、それを聞いた上でのモンコがかける言葉が素晴らしい。自分の力足らずとはいえ、ほぼ理不尽な怒りであっても、全て受け止め、相手の生きる力に変える――そんな彼の言葉は、紛れもなくヒーローのものであります(そしてタケゥチも意外とイイこという)。
その一方で、前回のある描写の理由が思わぬ形で明かされるのですが――そこから突然勃発しかかるカムヤライドvs神薙剣。また神薙剣の暴走かと思いきや、そこには意外な理由がありました。ある意味物語の始まりに繋がる要素の登場に驚くとともに、なるほどこれで二人の対決にも違和感がない――という点にも感心させられました。
次号は創刊21周年特別記念号。今回お休みだった『真剣にシす』が巻頭カラーで登場。『軍鶏侍』は完結とのことです。
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