『戦国妖狐』 第3話「永禄七年」
断怪衆の総本山に殴り込み、僧兵たちを蹴散らす迅火。しかしその奥の城に迫った時、突如立ち上がった城が繰り出した拳で、迅火は遥か彼方に殴り飛ばされてしまう。一方、自分たちの前に現れた霊力改造人間から真介たちを守ろうとした灼岩は、自分の所業を思い出してしまうことに……
ここまでで、いきなり現れた断怪衆にいきなり喧嘩を売った迅火がいきなり叩きのめされて――という展開だった本作ですが、ここまでが贅沢なプロローグだったという印象。慌ただしい展開が続きましたが、今回はその中で登場人物たちの行動原理を問いかける内容でもあったと感じます。
前回の引きで、霊力僧兵の一斉攻撃を食らっても全く堪えず、逆に一撃で吹き飛ばしてみせた迅火は、その直後に、今回の黒幕というべき老人・野禅と遭遇、自分に差し向けられた霊力改造人間を一蹴。しかしその彼も、霊力改造人間製造の本拠と思しき城に突入しようとしたところで、その城そのものに殴り飛ばされて……
と、目まぐるしい展開ですが、この城「泰山」の出現はある意味今回のクライマックスというべき文字通りの大ネタでしょう。しかし原作では一ページで変形、次の見開きでは迅火に拳が迫って――という、思わず唖然としてしまうような、実に作者らしいすっとぼけた意外性が良かったのですが、アニメでは城が立ち上がり拳を繰り出すまでをきっちり見せようとして、逆にそのスピーディーな意外性を殺してしまったのは実に勿体ない。動きを見せるのはアニメの利点ですが、なかなかメディアの違いと表現の関係は難しいと今更ながらに感じさせられます。
一方、真介周りのアニメオリジナルの描写は、相変わらず細かく厚みを増している印象で、熊(?)の霊力改造人間に襲撃を受けた際に、身を挺してたまと灼岩を庇い(ここでヘラヘラとツッコミを入れていたたま、一体どうするつもりだったのか。というか基本的にたまが戦闘で活躍した印象が薄い……)、ビビりながらも自分は逃げず、二人を逃がそうとする真介がその理由を語る部分はアニメオリジナル。彼なりの強さを求めての行動の帰結であることを示すその言葉の内容は、語らずとも行動を見れば感じられるものではありますが、しかしそれが彼の意思として明確に示されるのは、やはり大きな意味があると感じます。
もっとも彼の場合、意思に力が伴わないのが残念なところですが、それに対して力が意思を上回って暴走してしまったのが灼岩。彼女の暴走は前回も描かれましたが、今回はそれと微妙に異なる描写で――彼女自身の視点で、もう一度その様が、より細かく描かれるのが(もちろん良い意味で)キツい。特に怪物状態の灼岩に追い詰められた父親が、地面に散らばった銭をかき集めようとした描写など、実に厭らしい(褒め言葉)のですが、だからこそ彼女のどうしようもない絶望感が際立ちます。
そして人から闇になりかけて得た力に溺れ親を殺めた者がいる一方で、力がなかったために人に親代わりの闇を殺された者もいる――と、灼岩と迅火が一種の対照的な存在として描かれる一方で、真介はその力を求めた灼岩のあり方を人間として肯定してみせつつも、だからこそその結果の哀しさに堪えきれず涙を流す……
ここで語られたそれぞれにとっての力の在り方は、舞台となる永禄七年――戦国時代真っ只中の殺伐とした時代ゆえのものであるといえます。だからこそ、その力のより善き使い方をたまが示すことは、そのまま彼女がこれまで語ってきた世直しの理想の実現であり、この時代に抗うものでもあるのです。
と、改めてみるとなかなかに巧みな構成なのですが、客観的に見れば喧嘩を売って返り討ちにされ、追っ手から逃げているというシチュエーションは、やはりスッキリしないところではあります。Cパートで襲来が予告された次なる強敵との対峙がそれを変えるのか――見てのお楽しみであります。
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