「コミック乱ツインズ」2024年2月号(その一)
先日1月号が出たと思ったらもう2月号――と、正月が終わったことをしみじみと感じる、今年最初の「コミック乱ツインズ」2月号であります。表紙は『そぞろ源内大江戸さぐり控え帳』、巻頭カラーは『玉転師』、そして新連載は『前巷説百物語』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。
『玉転師』(有賀照人&富沢義彦)
というわけで久々登場の『玉転師』、今回の舞台は江戸を離れて安房白浜――現代でも名物として知られるあわびを巡るお話であります。
仕事で安房白浜にやってきたものの、あわびを食べたくて仕方がない十郎。しかしあわびは売り切れで落ち込んでいたところに、通りすがりの海女の娘・潮にあわび取りを頼むも――と、結構ツンデレな潮との出会いから、玉転師たちが動くことになります。
玉転がしが女性を売り飛ばして金を得る稼業なら、玉転師は女性を磨き上げて本人も買い主も(もちろん自分たちも)満たされる稼業。それだけにその売り方・買い方も一通りではありません。今回の結末は特にそれを感じさせますが、美人になりました、好きな人と一緒になりましたというだけでない、自己実現の姿を描いているのに納得いたしました。
心なしかこれまでよりも力が入って見える描線も印象的で、久々の登場に相応しい回であったかと思います。
しかしあわび料理――絶対やるとは思いました。
『前巷説百物語』(日高建男&京極夏彦)
新連載の本作は、久々登場の『巷説百物語』シリーズ――第四作の漫画化であります。原作は京極夏彦、そして作画を担当するのは言うまでもなく日高建男――これまでシリーズを『後巷説百物語』(の前半)まで漫画化してきた、この人しかいないという組み合わせであります。
日高版の又市は、御行姿も決まったクールなイケメンという印象で実に良かったのですが、『前』では御行になる前の「双六売り」の又市。はたしてどんな姿かと思えば、これが実に威勢だけはいい口先だけの若造感溢れるキャラクター。又市も昔はこんな感じだったのかと感慨深くなります。
そして顔といえば次々と登場するキャラクターたちも印象に残ります。日高版では初登場の長耳の仲蔵(アニメ版の印象が強いですがこれはこれで)、角助、そして林蔵――って林蔵、『巷説百物語』で登場した時と全然顔が違う! 一体何があったんだ林蔵(この後あるんですよ)というのはともかく、それぞれ「らしい」ビジュアルで楽しませてくれます。
(ちなみに顔といえば、おちかさんのビジュアルがまた絶品なのですが――この先のことを考えるとちょっと……)
物語は顔見せ&導入編ですが、四度も身請けされた女という魅力的な謎を語っておいてのこの引きは、この先がやはり楽しみであります。
『ビジャの女王』(森秀樹)
まだまだ続くビジャへのモンゴル軍の総攻撃――三本の攻城塔の一つは倒したものの、残る二本はまだまだ健在。そして対攻城塔の切り札と思われた弩砲は、門から出てきたらすかさず突入するという、結構プリミティブなモンゴル軍の戦法に封じられた形で――と、双方膠着状態であります。
もちろんインド墨者がこの事態を予想していないとは思えず、残る四人の墨者が陰で動いているはずなのですが――それはまだまだ見えません。そんな状況で印象に残るのは、だいぶ復活した様子のブブとジファルの会話であります。
先に描かれた過去編を踏まえて、ブブ・ジファル・ラジンの奇縁を語るジファルですが――何を想うかブブが黙して語らぬのに対して、色々と複雑な内面を見せ、そして何よりもブブに対する言葉使いが丁寧なものに変わっていく彼の姿は、注目に値します。
そして奇縁のもう一人、ラジンも一歩も退かぬ構えですが……
次回に続きます。
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