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2024.02.25

山根和俊『黄金バット 大正髑髏奇譚』第2巻

 令和に甦った昭和のヒーローが大正を駆ける、異形のヒーローアクション第二巻であります。黄金バットの依代として復活した月城少尉の前に立ちふさがるもう一人のバット・暗闇バット。任務で欧州に渡った月城たちですが、そこで彼と黄金バットの思惑がすれ違うことに……

 極秘任務で太古の邪神・ナゾーの巫女暗殺に向かったものの、人ならざる力を持つ彼女に返り討ちされ、一度は命を落とした月城少尉。しかし彼はナゾーと戦う謎の怪人・黄金バットの依代として復活。同様に命を落とし、機械人間として再生された先輩・笹倉中尉とともに、ナゾーの眷属たちと戦いを繰り広げることになります。
 しかし軍の内部も一枚岩ではなく、ナゾーに付いた一派の刺客が月城たちを襲います。そしてその中には、太古から黄金バットと戦ってきた暗闇バットの姿が……

 というわけで、二人のバットの戦いから幕を開けたこの第二巻。普通の人間では決して殺せないナゾーの眷属を、いとも容易く倒してしまう黄金バット――と、本作の作中パワーバランスはかなり極端なのですが、そんな中で、黄金バットと同格の存在が登場したことになります。
 いや、この時点の暗闇バットは黄金バットよりも実力は上。月城と黄金バットはあくまでも別の存在、未だに黄金バットと共に在る自分に違和感を持つ月城は、黄金バットと完全に一体化したわけではない一方で、暗闇バットとその依代の連続殺人鬼・白木虎雄は、破壊と殺戮を好むという点で一致しているのですから。

 かくて暗闇バットに圧倒される黄金バット。故あってその場は命を拾った月城ですが、彼と黄金バットとの間の思惑の違いは、続く展開――この巻のメインである、欧州での戦いで明確に示されることになります。

 後に第二次世界大戦と呼ばれる戦いの真っ直中であったこの時代――欧州で激戦が繰り広げられる中、上官から月城と笹倉に下された任務。それは敵国であるはずの独逸に渡り、そこで物資輸送の責任者である将校を護衛するというものでした。一見、利敵行為のようですが、そこにはできるだけこの戦いを長引かせ、そこから得られる利を貪ろうという上層部の思惑があったのです。

 普通のヒーローものであればあり得ないようなシチュエーションですが、しかし月城はヒーローではなく軍人。そして人間の自由意志を重んじる黄金バットも、その理非を意に介さない――と思いきや、ここで思わぬ事態となります。

 そう、この任務で月城が相手にするのは、敵とはいえあくまでも普通の人間。決してナゾーと無関係の人間に力を振るおうとしない黄金バットは、月城に力を貸すのを拒否――そのために月城の肉体もまた、常人に戻ってしまったのです。

 上で述べたように、人間の自由意志を重んじ、それを守ろうとする黄金バット。しかし彼のそれは、その結果、人間が争い滅んでもそれを許容するという、ある意味非常にドラスティックなものでもあります。
 その点で、人類を滅びから回避するために自らの意志の下で(人間の意志は無視しても)完全に管理しようというナゾーと、黄金バットとは非常に対照的な存在であります。そして人類初の世界大戦が行われている時代こそが、この両者の戦いの舞台にふさわしいともいえますが――しかしまさに神の視点としか言いようのない両者の戦いに巻き込まれた人間こそ、いい迷惑といえるでしょう。

 命令とあらば殺人も厭わずも、ナゾーが関わらなければ人間の命が失われていくのを座視する黄金バットに対して、違和感と疑問を抱く月城。しかしそれこそは、黄金バットが守ろうとする人間の意志の表れでしょう。
 だからこそ月城は黄金バットはと共に戦う「相棒」足り得る――この巻の終盤、ドイツから舞台をロシアに移して繰り広げられる戦いの中で描かれる、黄金バットと月城の関係性には、大いに頷けるものがあります。
(まあこの辺り、よせばいいのに月城たちを追ってきた暗闇バットのオウンゴールという印象もありますが……)

 そんな月城に対し、ナゾーの「配下」と化したラスプーチン(!)。両者の戦いはいかなる展開を見せるのか――そこには本作の向かう先があるのかもしれません。


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