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2024.02.23

『戦国妖狐』 第7話「火岩と芍薬」

 岩の闇に歓待される最中、里にやって来た旅の妊婦を里で休ませるたま一行。しかし妊婦が産気づいた矢先に、迅火抹殺の命を受けた道練と烈深が現れる。激しく男と男の拳を交わす迅火と道練。しかしその間に烈深が放った巨岩が、妊婦たちのいる小屋目がけて転がっていくのを見た灼岩は……

 原作読者にはついに来てしまったか、という他ない今回。OPなしでいきなり始まるところからも、ただならぬ雰囲気が伝わります。

 といっても前半はいつもどおりのゆるいムード主体の展開。強くなりたいと夜の素振りを欠かさない真介と、そこに現れた灼岩の、ラブコメ感満載のやり取りにはニヤニヤさせられます(ここで芍薬と火岩と、文字通りの一人芝居を見せる黒沢ともよの演技が楽しい)。あまりの小っ恥ずかしさに、その場に出ていかずにツッコミを入れるたまですが、迅火もたまの隣にいるために闇になりたがっている時点で大概だと思います。
(それにしても真介に剣を教えたのが、武士の幽霊だったのにはびっくり。語られなかったものの、原作でもそのつもりだったとか)

 しかしそんな甘酸っぱい展開の後、妊婦に名前を問われて、人としての名である芍薬ではなく、灼岩と名乗ってしまう彼女が切ないのですが――それを受けて妊婦が女の子なら芍薬と名付けると語る(そして迅火が男の子だったら火岩を勧める)のにグッと来ます。しかしあれもこれも、皆ある意味前フリだったとは!

 一方中盤では、前回酒を酌み交わした道錬が刺客として迅火の前に登場することになります。とにかく強い相手と戦うのが生きがいという道錬は、技はボクシング――いや撲神ながら、相手の攻撃を全て受けとめた上で勝つというプロレスタイル。自分は傷付かずに圧倒的な火力で瞬殺する迅火とは正反対の相手ですが、そんな道錬と真正面から打ち合うバトルはなかなか気合の入った作画で、きっちりバトルものとして盛り上がります。
 戦っているうちに変な脳内麻薬が出たのか、アヒャヒャヒャと笑いながら殴り合う迅火は確かに怖えですが……

 さて、前半でラブコメ、中盤でバトルと、シチュエーションとテンションを変えながら展開してきたこのエピソードですが、ラストに待つのは悲劇であります。それも極めつけの。
 道錬と迅火の熱戦を尻目に、妊婦が今まさに赤子を産もうとしている小屋めがけて、大岩を転がす烈深。混乱の中の道錬パンチで迅火はダウン、たまは妊婦の世話、真介には打つ手なし――という場で、立ち上がるのは灼岩。その力で大岩を受け止める灼岩ですが、しかしその時……

 もうこの先の展開は原作で何度も読み返して(そしてそのたびにボロボロと泣かされて)いるのですが、ここに動きと声がついた時の破壊力たるや凄まじい。
「だ…大丈夫す バケモンすから」
「安心して生まれてくるす 大丈夫 守るから」
「ようこそ世界へ しっかりがんばるすよ」
と泣かせる台詞の連続(ここで原作にない「幸せ…わたす幸せでした」と言わせるのもニクい)と来て、原作では(間違いなくあえて)描かれなかった赤子の泣き声を響かせる演出は、ある意味どストレートながら、だからこそ胸に刺さりまくります。そしてここでとどめに赤子の名が――とくれば、もうこちらも迅火の如く「おおおお」と呻くしかないのです。

 誰かをアレして泣かせるというのは、作劇としてはあまり褒められたものではないのかもしれません。しかしここでは、おそらくは本当の喪失を知らなかった迅火と真介が、それを真正面から突きつけられる――そしてそれとほとんど同時に、命の誕生を目の当たりにするという点で、すなわち生と死の在り方を目の当たりにしたという点で、大きな意味があったと感じます。
(そんな姿を、おそらくはこれまで無数の生と死を見てきたであろうたまが見守るのもいい)

 人と闇という軸に加えて、生と死という軸が描かれた今回。そのまま今回限定のEDに雪崩込むのも、大きな余韻を残すエピソードでした。


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