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2024.02.21

高橋留美子『MAO』第19巻 夏野の命の真実 夏野の想いの行方

 平安時代からの怨念と因縁を縦糸に、そして大正時代での怪異との戦いを横糸に展開する『MAO』、第19巻では前巻より続く人身御供の村を巡る戦いに続き、夏野の身に起きた出来事の真実が描かれることになります。そしてそれらの中で、己の力で摩緒を助けるべく奮闘する菜花ですが……

 長きにわたり雨乞いのための人身御供の儀式を続ける山中の村。そこで水を巡る異変が起きていることを知った摩緒と菜花は、その異変の主――新御降家の水の術者・流石と対峙することになります。
 この村の出身であり、かつて家族を奪われて復讐を望む男に雇われた流石に対し、それでもこの村に今も生きるものがいると止めようとする摩緒たち。しかしその戦いの最中も人身御供の儀式は続き――というところで、前巻からの続きとなっています。

 いつもであれば新御降家の陰謀を摩緒たちが打ち砕いて――という展開になるわけですが、しかし今回はあまりにも因習村のやり方が陰惨であるために、単純に善悪言い難いのも事実。そして新御降家側が流石――能天気で軽く女の子に弱いという、高橋作品に定番の陽性キャラであることもあって、何だか妙な空気が漂います。

 それでももちろん、村にはそこで生活を送る人々がいるのも事実。それを無視できず、土剋水だからと流石に挑む菜花ですが――その結末は予想できたものの、その先のこのエピソードの落着のさせ方はお見事というべきでしょう。
 ある意味新御降家で一番の強敵かもしれない流石のキャラクターを活かし、そして人身御供の少女・幸子が一歩踏み出す姿を描いての結末には納得です。
(幸子でスゴいオチをつけるのも含めて……)


 さて、次なるエピソードでは、震災後に被災者たちが住む不忍池に夜毎現れる妖をきっかけに物語が始まるのですが――ここでの中心となるのは夏野であります。
 土の術者であり、五人の候補者に含まれていなかったにもかかわらず、平安時代から大正まで生きながらえてきた夏野。それは謎の土人形との契約で、候補者の一人で土の術者・大五の五体を集めるのと引き換えの命だったのですが――ここで意外とあっさりと、彼女を生かしていた者の正体と、彼女の命の源が明かされることになります。

 それは半分は予想が付き、半分は予想外のものでしたが、いずれにせよここで明らかになった真実は、更なる謎と秘密を語るものであることは間違いありません。
 何故大五は蘇らされたのか。いやそもそも大五は誰に、何故殺されたのか? そしてそれは同時に、かりそめの命を持つ夏野の今後に繋がるものなのでしょう。

 そしてこの巻の後半で描かれるエピソードは、そんな彼女の想いの一端が描かれたものと言えるかもしれません。

 かつて悪逆無惨な盗賊だった鵺丸が改心して仏道に入り、即身仏となったものが祀られていたという鵺丸塚。その塚が壊されたのと共に、周囲に怪事が続発していることを知った夏野は、菜花を調査に誘います。
 悪霊退治ができるかもしれないという夏野の言葉通りに現れた不気味な怪物(その真実の陰惨さがまた、実に作者らしい)を前に、彼女は菜花にただ一人、祓ってみせるよう告げるのですが……

 本作における二人の主人公でありつつも、物語が始まった時点でほとんど完成したキャラクターである(それは平安組のキャラはほぼ全員そうなのですが)摩緒に対して、まだまだ発展途上のキャラとして描かれている菜花。
 そんな彼女の姿は、先に述べた人身御供の村でも描かれましたが、この鵺丸塚のエピソードでは、彼女がまた一段成長する様が描かれることになります。

 そしてそれは同時に、彼女を導いた夏野の姿を描くことでもあります。
 今は、幽羅子の口からかつての真実を知ることを「生きる」目的としている夏野。そんな彼女が、菜花を導こうとしているのは――あるいは自分の「余命」を悟っているからなのでしょうか。

 先に平安組はいずれも完成したキャラと述べましたが、その中で唯一大きく不安定な要素を抱えた彼女だけに、その向かう先が気になるのです。


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