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2024.02.18

「コミック乱ツインズ」2024年3月号

 「コミック乱ツインズ」2024年3月号は、ちょっと気の早い桜をバックにした若又市の『前巷説百物語』が表紙、『江戸の不倫は死の匂い』が巻頭カラーであります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『前巷説百物語』(日高建男&京極夏彦)
 というわけで花を背負って表紙を飾った又市ですが、本編の方は、提灯一つの灯りのみの暗闇の中、登場人物たちの言葉のやり取りが続くという、ちょっと舞台劇的な味わいのある回。主要キャラクターたちが揃ったところで、首を吊ろうとしていたお葉の口から、そののっぴきならない理由が語られることになります。

 聞けば、彼女が慕う音吉がかみさんに殺され、さらに彼女から自分まで殺されかかったところで逆に殺してしまったという状況。そんな八方塞がりのお葉を、後の又市であれば妖怪の仕業にして救ってみせるところですが、今の又市にできるのは、狡かろうが汚かろうが惨めたらしかろうが人は生きてこそ、と『必殺必中仕事屋稼業』の最終回みたいな言葉をかけるくらいしかできません。
 そんな中、この損を三十両で買うと角助が言い出して――いよいよ次回、仕掛けが始まります。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 まだまだまだ続くモンゴル軍の総攻撃、三本の攻城塔の一本は倒し、モンゴル軍の突撃戦法を何とか防いではいるものの、やはりビジャ側がジリ貧であることは否めません。そしてついに攻城塔が城壁に取り付き、こういう時に役に立ちそうな火矢の攻撃もしっかりと対策が取られているという危機的な状況で、モズが取った策とは……

 なるほど、確かにちょっと勿体ないですが、こういう風にすればいいのか! と勉強になる(いや、利用する機会はないですが)展開。何とか一矢報いたものの、しかしまだ逆転にはほど遠い状況で、頼みの綱はモンゴル軍の中のインド墨者の働き以外にないと思われますが……


『真剣にシす』(盛田賢司&河端ジュン一・西岡拓哉/グループSNE)
 大坂城で大塩平八郎を相手に繰り広げられるカードゲーム「蔵騒動」もいよいよ佳境。大塩が金と米、銃の札を集めてゲームの勝利と実利を求める一方で、夜市は何故か酒の札を集めるのに拘って――という展開からは明らかに大塩有利に見えますが、夜市の場合はここからが怖いのはいうまでもありません。

 大塩のスカウトも煙に巻き、飄々とプレイを続ける夜市の真意と勝算は――と、白熱の勝負が繰り広げられるのですが、ちょっとルールがややこしくて点数の計算が頭の中で追いつかないのが辛い。ゲーム自体はよくできているのですが、プレイの内容自体は札のやり取りなので、地味に見えてしまうのも勿体ないところです。

 そしてゲームの方は思わぬ展開を迎えたところで、次回最終回――ってここで!? ちょっとどころではなく残念ですが、どのように締めくくるのか見届けたいと思います。


『カムヤライド』(久正人)
 ヤマトタケルの東征に対して、いよいよ激化する蝦夷&国津神連合軍の攻撃。もっともこちらはモンコ・ヤマトタケル・オトタチバナ・タケゥチとたった四人とはいえ、国津神特効持ちが二人に、無敵のタンク役、さらに速度と技術に全振りした攪乱役もいるという構成で、隙はありません。
 コール付きの新フォームを二つも披露と、神薙剣も絶好調ですが――しかしここで(国津)神絶対殺すマンである彼の、意外な弱点が判明することとなります。

 一歩間違えれば文字通り命取りになるこの弱点ですが、それを知りながら何故モンコが放置しているか――その理由が、彼の揺るがないヒーロー精神、いやそれ以上にヤマトタケルへの友情と信頼を示すようで、大いにグッときます。

 が、グッと来るのはそれだけではありません。オオウスを奪われて以来、殺伐とした気配を隠さず、その苛立ちを蝦夷たちにぶつけようとしたオトタチバナ。その彼女にモンコが差し出したのは……
 モンコのキャラクターのある側面が大きな意味を持つこの展開には、そう来たか! と大いに納得&テンションが上がりました。

 飄々としつつも、さらりと人を守り救うことへの固く熱い信念を見せるモンコを見ていると、本作がヒーロー漫画である所以は、単にカムヤライドという変身ヒーローが登場するからだけでないと、改めて感じるのです。


 次号は『ビジャの女王』が表紙、 巻頭カラーは『そぞろ源内』とのことです。


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