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2024.03.12

『明治撃剣 1874』 第漆話「因縁」

 平松の反撃から藤田に助けられた狂死郎は、藤田に己の過去を語る。戊辰戦争の最中、平松の仲介で武器と軍事援助を求めて父とプロイセンに渡った狂死郎は、騙された上に口封じのために平松に父を殺され、自らも深傷を負ったのだった。一方、狂死郎を小山内殺しの犯人として追う静馬だが……

 静馬が今回も冒頭とラストくらいにしか出てこない一方で、大半を狂死郎の過去話に費やした今回。もはや狂死郎が真・主人公感がありますが――彼の過去は、それに相応しい数奇な内容であります。

 これまで積み重ねてきた数々の策謀の末、ついに怨敵である御前=平松武兵衛ことジョン・ヘンリー・スネルに手が届くところまできたものの、逆に罠にはめられ、同志の一人・愚円を失った狂死郎。そんな彼らを救ったのが、いきなり馬車で突入してきた藤田だったわけですが――それで藤田を信用したのか、求められるままに狂死郎は彼に過去を語ります。
 これまでもその正体は庄内藩士・池上宗一郎であると語られてきた狂死郎ですが、彼の家は相当高い地位だったらしく、会津藩の代表として現れた平松、そしてプロイセン公使との交渉の際には彼の父・池上宗典が藩の全権を任せられていたほど。それでも初対面の時から平松のことを疑わしく思っていた狂死郎ですが、それでも追い詰められた庄内藩には他に選択肢はないと、池上親子はプロイセンとの交渉に向かうことになります。しかし鉄血宰相ビスマルクと対面した宗典が知ったのは、武器の供与そしてプロイセン軍の軍事援助の代償・黄金五百万両に当たる条件が、蝦夷地「租借」であったはずのものが、「割譲」となっていたという事実でした。

 如何に窮状にあろうとも、異国に領土を割譲のはいかがなものか、と煩悶しながらも契約を結んだ宗典。しかし彼らが帰国する前に会津と庄内は敗北、プロイセンや平松の企ては水泡に帰してしまったのですが――そこで口封じのために(自分自身のためでなく、松平容保のためというのは立派ではあります)宗典と船の乗組員を皆殺しにする平松。狂死郎も平松の手によって背中に深手を負い、片目も奪われて海に落ちることに……
 それでも運良く日本人の船に拾われ、日本に戻って平松を探す狂死郎。しかし探し求めていた平松が嵐で海の藻屑となったことを知り絶望することになるのですが――彼を拾った船に乗っていた幻丞、新政府の兵士と悶着を起こした彼を狙った賞金稼ぎの愚円、切支丹として囚われていたところを助けたダリオと知り合い、四人でチームを組むことになるのでした。

 そして平松が死を偽装して生きていることを知った狂死郎は、同志とともに平松を追って東京に現れて……

 というわけで、出自といい過去といい目的といい、実に主人公に相応しいドラマが語られた狂死郎。
 一方、静馬は小山内殺しの犯人が狂死郎だと思い込み、何故か行動を共にする中澤琴と一緒に守屋組の三下を締め上げたり、同僚が極秘で持ち出した捜査資料を調べたりと動き回るも今のところ成果なし。そして彼のそもそもの行動の目的であった婚約者である澄江=雛鶴は、病に冒された身でありそして暗殺者として暗躍してきた自身は彼に相応しくないと、暗殺者として死ぬ決意を固めるのでした。

 しかしついに澄江の存在を知り、彼女の後を追う静馬。その頃彼女は、招魂社で暗殺者として大久保を待ち受け……


 かくて幕末からの因縁、そして御前が進める謎の計画を巡り、大久保と川路、御前と守屋、狂死郎一党、そして静馬たちが入り乱れることになった物語。その中でこれまでしつこく言い続けてきたように、静馬の存在感があまりにも薄いのが心配なところですが、さてこれから大逆転はあるのか。残すところあと三話であります。


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