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2024.03.28

椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第8巻 異国からの脅威 新たなる腸詰男!

 怪奇現象の背後に潜む能力者に対し、時にこれを捕らえ、時にこれを保護し、陸軍エリィト養成校に「推薦」する岩元先輩の活躍を描く本作、第八巻は最近偶数巻では定例の長編エピソードであります。今回岩本先輩たちの前に立ちふさがるのは腸詰男――いかにもおぞましい名を持つ男の能力とは!?

 陸軍栖鳳中学校の中でも肉体派エリィトが集まる「前線部隊」の一員として、陸軍の密偵任務に就いていた三年生の権藤。しかしその最中に彼が見た光景は、彼の想像を絶する、世にもおぞましいものだったのです。
 これはあいつ向けの分野だと、岩元に協力を求め、家具のオークション現場に潜入した権藤と岩元。そこに再び現れた男は、石化した人間の肉体が埋め込まれた家具を落札するや、自らの「能力」で、その肉体を生身に戻していったではありませんか。

 これこそ先に権藤が見た光景――男が手を動かすや、無機物が「肉片」に変わってしまう、いや生身の肉体も「腸詰」に変えてしまうその男。その名はユルゲン・ニーマン=ブルストマン――すなわち「腸詰男」、ドイツの能力者であります。
 日本各地に現れ、家具や人形に封じられた人体を蘇らせていく彼の目的は、はたして何なのか……


 ここしばらく、奇数巻は短編エピソード集、偶数巻は怪奇で危険な能力者との戦いを描く長編エピソード「××男」編という構成だった本作。この巻もその流れからは外れることなく、「腸詰男」編となります。
 見るからに厭な予感が漂うこの男の能力は、手で捏ねたものを腸詰にすること――それだけであれば何となく無害にも思えますが、しかし相手の内臓の一部を腸詰に変えるだけで簡単に殺すことができる、恐ろしい能力であります。

 しかし今回、腸詰男が狙うのは、19世紀の人間石化技術によって作り出されたというアンティーク家具――人間の肉体の一部や臓器を石化し、装飾として使用したという、猟奇にもほどがある家具に使われた人体の存在です。
 はたしてそんなものをわざわざ彼が――それもドイツという国家をバックにつけて――狙うのは何故か。人体のパーツが使われている、ということから、何となく予想が就くような気がしますが、いずれにせよ、恐るべき企てであろうことは間違いありません。

 そして相手がドイツの――異国の能力者ということで、久々に大英帝国の魔女軍団も参戦。今回は共通の敵に挑む同盟者的立場として、助っ人的な立ち回りを見せてくれるのも、嬉しいところであります。


 しかし、本作の長編エピソードは、単純に能力者を倒すべき敵としてのみ描くものではありません。彼は何者なのか、何を思ってその能力を振るうのか――如何に怪人いや怪物というべき存在であっても、そこにある情や想いの存在を描くことは、本作において一貫しているのです。
 そしてそれが、国や軍に時にその能力を利用され、時に実験動物としてすら扱われる能力者を保護しようとする岩元の姿勢に繋がっていくのですが――しかし今回の腸詰男は、自らの能力を積極的に用いてのし上がろうとする、かなり「生臭い」存在といえます。

 なるほど、能力者は哀れな、保護されるべき存在なのか、能力者はその能力を自分のために用いてはいけないのか? それはある意味当然の疑問であるといえるでしょう。しかしそれを目的に動いた時、能力者を待つものは何か――それがこのエピソードでは描かれるのではないでしょうか。


 そしてこの強敵を相手に、戦力出し惜しみなしで挑む岩元たち。これまでも英国魔女戦で活躍した雨男・佐々眼流雨に加えて、今回は人形をこよなく愛する淡魂瑞火が参戦することになります。
 特に淡魂は、日本人形を常に抱きかかえ、人間に対するように語りかけるというその普段のビジュアルだけでインパクト満点ですが、今回ついにその能力を発揮――苦手な方であればトラウマになりそうなその能力もまた、強烈であります。

 さらに前巻に登場した能力者たちも協力して、腸詰男を阻まんとするのですが――はたしてその凶行を止めることができるのか。物語は巻をまたいで、次巻に続きます。


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