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2024.03.29

『戦国妖狐』 第12話「迅火と道錬と竹吉とバリー」

 道練の奥義に大ダメージを受けながらも、とんでもない手段で復活した迅火。今度は彼の奥義が道錬に放たれた時、その場に思いもよらぬ存在が現れる。一方、真介と烈深は空を舞台に激闘を繰り広げる。二つの戦いが終わり、劣勢に立たされた野禅は泰山を発動させるが、そこに山の神が現れる……

 いよいよ最終回一話前、一番盛り上がる時分ですが、今回は二大決戦が決着、そしてとんでもない番外(?)戦が――とクライマックスに相応しい盛り上がりとなります。その中で、「ん? なんじゃこれは」的な謎の場面もあるのですが……
(しかし、原作の「迅火と道錬」「竹吉とバリー」という二つをそのままくっつけた今回のサブタイトルはどうかと思います)

 前回ラスト、道錬の千尋拳と烈深の轟震海、それぞれの超必殺技的な攻撃が放たれてヒキになりましたが、轟震海はあっさりと躱された一方で、千尋拳を防御するを選んだ迅火は大ダメージ。それもそのはず、千尋拳は単なる連打技ではなく、時空を歪めて、無数の拳筋の可能性を同時に存在させるという、原理的にはとんでもない技だったのですから……
 いやいやいや、武術特化のバトルマニアだとばかり思っていましたが、正直これは神雲より凄いのでは。そしてグロッキー状態の迅火は――何をとち狂ったか、前回生えた霊気の腕を自分の頭に突っ込んで引っ掻き回したので、戦っている方も見ている方も皆ドン引き。結果としてまた尾が増えましたが、どちらかというと烈深がやりそう(やられてそう)なパワーアップではないでしょうか。

 そんなわけで七本尾となった迅火は、二本の尾でダブルブリザードをかまして道錬の逃げ場をなくし、そこに五行魂を放つという戦法に出ますが、道錬は技の発動前に懐に飛び込もうとして――ここで今回の一番の問題シーン、いきなり二人の間を、何の脈絡もなく通り過ぎる謎のフードの人物たち。二人に全く注意を払うでもなく、そしてたまたちも全く気付かない、二人にしか見えなかった謎の人々――あまりに不気味な存在に気を取られた道錬は、結果として棒立ちで五行魂を真正面からくらい、黒焦げに……
 さすがに壮絶ノックダウンですが、それでも満足げに倒れる時も前のめりだったのは、最強の男ならではでしょうか。

 一方、真介と烈深の戦いは、狭い地下で、烈深の猛攻を真介が荒吹で躱す、というかもう自分の意思を持ってる荒吹が躱しまくるという展開。原作では偶然でしたが、こちらではクレバーに相手の攻撃を誘って天井に穴を開けさせた真介いや荒吹は、空に逃れますが――しかし中途半端な実写メカみたいな状態の烈深も空を飛ぶ! 問答無用で空中戦を繰り広げる姿には、時代劇アニメとはなにかと考えさせられますが、その中でただ一人(?)戦いから離れたものを見ていたのは荒吹――憎しみに囚われてぶつかり合う二人を尻目に、空を自由に舞うことの素晴らしさを語る荒吹には、確かに真介が愚痴めいたことを言いたくなるのもよくわかります(この場面、原作では真介も烈深も、どうしようもなく囚われ、迷っていることが二人のセリフで描かれていたのですが、カットされてしまったのはかなり残念)。
 しかしそんな真介の目に映ったのは、灼岩が散った日に彼女の上にあったのと同じ、鳥が舞う広くて青い空。そして荒吹に促されながらも彼が放ったのは、彼が物語冒頭から唯一得意とした真っ向上段――その名も天地割り! このシチュエーションに灼岩のカットイン付きで放たれた技が効かないはずもなく、見事に烈深を一刀両断するのでした。
 が、それでも終わらない二人の戦い。訳のわからない叫びを上げながら目を血走らせて突っ込んでくる体一面に符を貼った男という、かなり怖い状態の烈深と正面から殴り合う真介ですが――しかし何発目かの巨武志を食らった烈深は、そのまま体がバラバラに裂けるという、本作有数の無惨な死を遂げます。最後に聞こえるか聞こえないほど小さく「ママ」と呟きながら……

 悲しみとも怒りともつかない凄まじい叫びを上げた末に、それでも立ち上がった真介。それでも気遣うたまに、「それまではおれもまだ鬼をやるぜ」と告げたのは、とりも直さず彼が鬼になったのではなく、鬼の仮面を意識して被っていることを示すものでしょう。そして何となく対等の友達という感じになった真介と迅火ですが――そこでヤケになった野禅が、泰山を完全にトランスフォーメーション!
 が、ある意味それは待ち望んだ瞬間。りんずの魂寄せで現れた山の神は、泰山の巨体をさらに上回る巨大な姿で蹴りを入れて――もはや戦いがまさしく神々の領域に達したところで、最終回に続きます。


 しかし今回本名が出た山の神、オオヤマツミではなく、オオヤマミツチ(ヒメ)なのですね。ちょっと面白い。


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