有谷実『楊家将奇譚』第3巻 そして解き明かされる彼女の運命と物語の終わり
『楊家将演義』の世界に現代の女子高生・鈴が転生するという異色の歴史ロマンス、完結巻であります。遼の密偵に狙われたことをきっかけに、急速に距離を縮めていく鈴と四郎。しかし遼との戦いが迫る中、鈴は五台山を目指すことになります。はたしてそこで彼女が知る真実とは……
雷に打たれたのをきっかけに、千年以上昔の宋国に飛んでしまった女子高生・鈴。遼との最前線で戦う楊家の四男・四郎に助けられた鈴は、主の楊業夫妻とその七男二女に受け入れられ、束の間の平安を得ることになります。
しかし楊家軍の中に間者を送り込んできた遼によって鈴は誘拐され、単身後を追った四郎も深手を負ってしまうことになります。しかしその時、鈴が普段の彼女とは異なる人格を見せて……
という展開で終わった前巻ですが、鈴の謎の人格はすぐに消え去り、彼女と四郎の間は、急接近することになります。
元々、鈴が宋に現れた直後から縁のある四郎ですが、彼女に対する態度は妙に冷淡。しかし命がけの戦いを二人でくぐり抜けたことが距離を縮めたのか、四郎も不器用な優しさを見せ、二人で開封府の祭りに出かけるなど、かなりイイ感じになるのでした。
(この辺、滅茶苦茶理解のある楊家の人々)
しかし、甘い時間は長くは続きません。捕らえた遼の間者から、狙いが実は自分であったことを知る鈴ですが、間者はさらに意外なことを語ったのであります。
楊家将にとっては宿敵である、遼の中心人物・簫太后――いつまでも若さを失わぬこの謎の人物と鈴は瓜二つ。さらに簫太后には、かつて六歳で亡くなった娘・瓊娥公主がおり、生きていれば鈴と同じくらいの年頃だというのです。
実は同じ六歳の頃、交通事故で両親を失うとともに、自分も死線をさまよった過去を持つ鈴。そのことが簫太后、そして瓊娥公主と何らかの関係を持つのか?
誰にも打ち明けられぬ悩みを抱える鈴ですが、その間も遼との戦いは激化――鈴は戦場に向かう楊家の人々と別れ、五台山に向かうことになります。
元々、五台山の老師が予言した、楊家の運命を左右する仙女ではないかと言われていた鈴。その五台山に行くことで、自分にまつわる謎が解けるかもしれない――護衛を買って出た四郎とともに旅路を急ぐ鈴ですが、思わぬ襲撃を受けた末に……
というわけで、本作の物語の中心である鈴の正体――彼女が何故宋に現れたのか、楊家将そして遼王家との因縁は、という謎が、この第三巻ではついに明かされることになります。
その真実とは――さすがにここでそれを明かせないのが何とももどかしい。窮地に陥った鈴の前に現れたのが、伝説の人物というべきとんでもない大物だったのに驚かされたと思えば、その人物が語る真実たるや、まさに仰天という言葉が相応しいものなのですから。
なるほど本作はタイムスリップものというより転生もの、そしてそれと同時に△△△ものであったか――と驚かされたと思えば、その運命の始まりが、本作の原典というべき『楊家将演義』でもお馴染みの、あの出来事であるのにまた感心。
しかしそこからさらに一捻りされて、一人の少女の壮絶で哀しい愛の物語が描かれ――と、そうかそうであったか! と、本作ならではの仕掛けに膝を打ちました。
冷静に考えればとんでもない話ですが、まあ××が絡んでいれば大抵のことはOK。そしていきなり登場したかに見えるこの超大物も、実は既に登場していたそのライバル(?)ともども、よく考えたら原典に登場していたわけで、この辺りの起用にもニッコリであります。
と、ほとんど一人で納得している状態で申し訳ないのですが、『楊家将演義』をご存じの方であれば、こういう切り口があったか! と感心いただける内容であるのは間違いないかと思います。
ただし――問題は、ほとんどこの最大の謎が解けた時点で、物語が完結してしまうことであります。確かに鈴が選んだ選択には納得であり、そしてそれが△△△ものとしての本作に繋がるのも見事なのですが――だからこそ、そこで終わってしまうのが残念でなりません。
日本には馴染みの薄い題材を用いつつも、その内容を踏まえて巧みなアレンジを加え、そしてそれを美麗な作画が彩る――良作であっただけに、その先を読みたかったと、心から思います。
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