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2024.03.08

『戦国妖狐』 第9話「山の神(前)」

 断怪衆に洗脳された泰山の目を覚ますため、迅火一行に協力するという山の神。たまは、泰山に並ぶ断怪衆の大戦力に、自分の母・くずのはがいるのに仰天する。そして神雲が迫る中、山の神から修行を課せられる迅火・たま・真介。時の流れが止まった空間で、それぞれ自分に向き合う三人だが……

 よく考えてみたら話数的にはもう後半の本作、そこまで来てタイトルは前後編なのが謎ですが、内容的には色々と新事実の判明とパワーアップ(のための修行)、そして迅火の内面吐露に、今後の展開を大きく左右する出来事の発生と、かなりの充実ぶりであります。

 そんな今回の中心となっているのは、前回から登場した山の神(なるほど、サブタイトルになるだけはある)。主人公たちが行き詰まりつつあるところに現れて事態を一気に解決の方向に持って行ってくれるのは、ある意味神様ならではですが、ビジュアル的には、頭の三方から木の枝を生やした胸元をはだけたお姉さんという、何とも形容しがたいものなのがユニークといえばユニークです。
(よく迫る気になったな黒月斎……)

 そんな山の神が手を貸してくれる気になったのは、以前断怪衆の総本山に殴り込んだ迅火を文字通りブッ飛ばした城・泰山――元々は山の神の一人である彼の目を覚ます手伝いをさせるため。聞けば泰山は断怪衆の三つの大戦力――泰山、龍の男・神雲、妖狐・くずのは――の一つに数えられるということですが、くずのはの名を聞いて愕然としたのは同じ妖狐の、というか、くずのはの子だったたまであります。
 かつて研究好きの一法力僧に過ぎなかった(しかし原作にあった「つまらない男」という表現がなくなったのでだいぶ印象が異なる)野禅が、討伐に行った先で互いに一目惚れ、他の僧を皆殺しにしてまで添い遂げたというくずのは。たまにとっては唾棄すべき存在のようですが、愛する男(?)を精霊転化させるという点では同じ――それでいて一方の相手は闇を人間に、もう一方は人間を闇にしようとしているのも面白い――なのが、やはり親子というべきかもしれません。

 まあ野禅べったりであろうくずのは(しかし表向きは討伐されたことになっているくずのはが、大戦力扱いというのはどうなのかしら)はともかく、泰山は山の神が対応するとして、残る神雲は、もうすぐ近くまで迫っている状態。タヌ吉朗が漫画よりもさらに派手にギリギリ大サービスしたりしても(ここで珍しい神雲の親心)時間稼ぎにしかならないところで、山の神は親切に迅火・たま・真介の三人を修行場に案内するのですが――これがまあ、仕掛けが豊富なナントカの部屋みたいな時間の流れがほとんどない閉鎖空間であります。
 一人一人分断された上、それぞれ違う修行をつけられる三人。迅火は山の神の巫女・りんず(好きだという相手の腕を平気で斧でブッた切る狂――いや加減を知らない子)との勝負を、たまは水で囲まれた地からの脱出を、真介は巨岩で出口を塞がれた窪地からの脱出を――と、それぞれ何となく深層心理を踏まえて設定されている感じですが、いずれも力押しでは突破できない難関であります。

 その中で一番力でどうにかできそうなのは迅火の試練ですが、しかし戦うのは小娘の上に武術も仙術も使いこなす――そしてこの空間の特性を知り尽くした相手。しかも彼自身は武器もなく、ましてや精霊転化もできないという、無一物の状態であります。
 さらにその場に顔を出した山の神が、精霊眼のことを教えると称して、迅火の双子の兄弟のことを――そして彼が幼い頃に山戸家から引き離されたというトラウマをガンガンついたりキツいことを言ってくるのだからタチが悪い。肉体の攻撃はともかく、思わぬ精神攻撃でギリギリまで追いつめられた迅火が、思わず吐露した真情は、そしてその果てに気付いたことは……

 この辺り、意地悪にいうと自己啓発セミナーめいて見えるのですが、しかし山の神の一種のカウンセリングで、迅火が己を「見つめ」直したのは事実。そしてその経験が覚醒させた彼の妖精眼の力は、漫画とはまた少し異なる美しいエフェクトが加わって、彼の得た真理を描くに相応しいものを感じさせます。


 しかしその一方で、修行を一番最初にクリアしたのは真介。迅火が無手だったのに対して荒吹をこの空間に持ち込んでいたり、実は結構柔軟な心の持ち主であることをうかがわせますが、ここで山の神が雑に放り出したことで、思いも寄らぬ事態が発生します。実はこれが、この先の物語に猛烈に大きな影響を与えることになるのですが――それは如何なる形によってなのかは、また次回で。


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